【ずっと会いたかった人】おいしい野菜の伝道師、料理研究家の田中聖子さん(2/4)
料理店「ごはん屋ヒバリ」をオープンするきっかけになった、広島の「固定種の野菜」。店主の田中聖子さんが「力強くて、個性的な味が魅力」と語る野菜のこと、たっぷりお話しいただきました。
- ――固定種の野菜について、教えてください。
- 固定種って、形や収穫量は決して一定ではないんです。収穫の時期も長くて、ナスなら、出始めの「はしり」はみずみずしくてやわらかく、最盛期の「さかり」は充実したおいしさ、「なごり」といって終わりのころには繊維が固くなる。私は、その時々の特性を見極めて、調理法を工夫して、最大限のおいしさにしたいと思っているんです。
- ――旬の野菜と言っても、微妙な味の変化があるのですね。
- スーパーで買える野菜の90%は、F1種といって、一代限りの種から育てる野菜です。形が均一で、大量生産できるんです。固定種とは、先祖代々受け継がれてきた品種のことで、その土地に根づいた品種を在来種と言います。つい50、60年くらい前までは、日本の野菜のほとんどが固定種だったんですよ。味が濃くて、個性が強い。消えてしまったら、こんなに悲しいことはないです。
- ――(かじって)たしかに味が違いますね。
- 力強いでしょう、味が。人参は、人参らしい味がして、トマトはトマトらしく、酸味も甘味もある。固定種、在来種の野菜はアクもあるのだけれど、アクも味のうち、栄養のうち、と私は考えています。当然、栄養価も高いはずですから、毎日食べる野菜の何を選ぶか。大げさに言えば、人生も変わってくると思うんです。
- ――農家さんも収穫してみないと量もわからない。受け取る田中さんは、楽しみでもありますね。
- 楽しみ、というより、必死です(笑)。毎年6月にらっきょう10㎏仕入れましょう、という話ではないんです。今年は豊作だと聞けば、私は全部仕入れて、全部おいしく食べられるように加工したい。だから毎年、何日も皮をむき続けてらっきょう漬けを作ります。青柚子と唐辛子が採れたら、また全部送ってもらう。それを柚子胡椒にする。生姜のシーズンは、ジンジャーシロップ。もう延々と作っています。
- ――新しい野菜の種を、田中さんが送って作ってもらうこともあるそうですね。
- はい。以前、ディルを育ててほしいと種を送ったのですが、農家さん、雑草と思って抜いてしまったことも(笑)。フェンネルのときは、袋詰めにした上に、「?」と書いてありました。
- ――「野菜で会話」しているみたいです。
- そうかもしれませんね。私も初めて見る! 何だろう? と思う野菜もときにはあって、調べてみて、あ、これがツノニガウリなんだとわかって、料理法を探るわけです。その交流も面白いし、お客様も、ヒバリで出される野菜を面白がってくださっていると思います。
- ――農家さんに「レシピを返す」とは、どういうことですか?
- 新しい野菜を作っても、売りにくいんですね。どう扱っていいか、誰もわからないから。「何年もビーツ作っているんだけど、どうしたらおいしく食べられるのか?」と質問がきます。レシピ開発係の私の出番です(笑)。ビーツは土っぽい匂いがするから、下茹ですると食べやすいですよとか、酢を合わせて茹でると赤い色がきれいですよとか。チーズやヨーグルトと和えるだけでもおいしいですよとか、伝えると、学校給食でも扱ってもらえるようになるんです。
- ――なるほど、レシピと食材とはセットなんですね。
- レシピは「恩返し」でもあるんです。このコロナ禍で、農家さんも大変でした。直売所も閉鎖したし、学校給食もなくなった。そこで「お弁当を始めるから、野菜をあるだけ送ってください」と連絡して。生姜が採れた? 何十㎏でも引き受けます! と。野菜にも使える消毒薬を送ってくださるなど、お店のことも気遣って、助けてもらいました。だから、もっともっと恩返しをしたい、今そんな思いでいます。
- ――野菜そのものの味がしっかりしていれば、味つけはシンプルですむのですね。
- そうです。基本、上等なオイルと塩があればおいしい。この考え方は、生活全般に通じると思います。ステイホーム中に私、「姿勢改善」したんです。猫背なのを仕事のせいにしていたのですが、背筋を鍛えて、ずいぶんよくなりました。
- ――姿勢って、根本的なことですよね。
- きれいな姿勢でいることは、肌がきれいと同じくらい気持ちいい。人間として他の人に与える影響がとても大きいです。年配の方でも姿勢がいい人は、とてもきれいだと思うから。ついでに、なるべく肌もきれいでいられたら(笑)。
- ――スキンケアで一番好きなものは何ですか。
- クレンジングです。デルメッド バーム クレンジングのすっきり感が大好きで、毎日、湯舟につかりながら、ゆっくりマッサージするように使っています。私の、くつろぎの習慣。しっかり汚れを落とすことがきれいの基本のような気がします。
- ●第3回は11月5日公開。山ほどの野菜を一体どんな保存食にしているのか、田中さんにお聞きします。
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田中聖子(たなか・せいこ)
「ごはん屋ヒバリ」店主、料理研究家
鳥取県生まれ。広島大学理学部修士課程修了後、公務員として研究所に勤務。旅先で広島の固定種の野菜に出合い、そのおいしさに衝撃を受ける。その後、農家との交流を通して、「食」への関心が高まる。2010年東京都世田谷区砧に、旬の野菜を軸にした料理を出す「ごはん屋ヒバリ」をオープン。料理教室も人気となる。2020年より、野菜、調味料、手作りの保存食などを扱うオンラインショップをオープン。ウェブ配信での料理教室も計画中。
http://hibarigohan.com/
https://hibariclass.stores.jp/
Instagram @gohan_hibari
Facebook @hibarigohan
撮影・青木和義 ヘア&メイク・広瀬あつこ 構成と文・越川典子
「ごはん屋ヒバリ」の食材&お箸のスペシャルセット、10,000円相当を5名様にプレゼントします。
(左上から時計回りに)広島県産無農薬らっきょうを純米酢、きび糖で漬けた「らっきょうの甘酢漬け」。スペイン産のピコリモン種のオリーブから採れた「オーガニックエキストラバージンオリーブオイル<チャンベルゴ・ピコリモン>」は、ろ過せず、上澄みだけを集めたまるでジュースのように爽やかなオイル。英国う王室御用達の「マルドン シーソルト」は海水のみを原料とし、平釜製法で仕上げたまろやかな味わい。有明産の一番海苔「磯板海苔」は、別格の風味、くちどけのやわらかさ。お箸はお店でも使っている、沖原沙耶さん作のヒバリオリジナル。瀬戸内の美しい海で育ったひじきを、鉄釜と薪で炊き上げた、山口県祝島特産「天日干しひじき」。どしどしご応募ください。