会いたかった人
【ずっと会いたかった人】「植物の力」を作品にこめる、イラストレーターの山本祐布子さん(3/4)
イラストはもちろんのこと、mitosaya薬草園蒸留所のティープロダクツの担当者であり、家族の日々の「食」を即興のように整え、ピアスやネックレスなどアクセサリーのデザインも。本業である「イラストレーター・山本祐布子」だけでなく、トータルな意味でのクリエイターとして存在が注目されています。
- ――こうして薬草園を歩いていると、あちこちにお花が目につきますね。
- いつの季節でも、敷地内をぐるりと歩けば花束がすぐにできます(笑)。摘んでいきましょうか。こうして束ねて、贈り物としてお渡ししたり、mitosayaを訪れたお客様のお土産にしたりすると、とても喜んでくださるんです。春から秋はそのときどきの花が盛りですが、花がない季節はグリーンだけのブーケも作ります。お料理が好きな友人には、ハーブだけで作ったりもします。香りがまったく違うようなのです。
- ――こうした環境は、クリエイターとしての山本さんに影響を与えていますか。
- 薬草園の植物はもちろん管理をしていますが、鳥が果実をついばんで落とした種から芽生えるなど、自然の中で育ったものです。その生命力は強くて、そばにいる人間に無言で伝えている存在だと感じています。プロダクツの中心である、フルーツブランデーもそうですが、私たちが作るものは、自然の流れの中にあるもの。それは口にするものでも、絵として目で見てもらうものでも同じで、変わらないんですね。自然豊かなこの場所に住むようになって、確信は強くなりました。
- ――mitosayaの敷地内MAP、これは山本さんのイラストですね。
- はい、ホームページにも載っているので、見てくださったのですね? この枝は初めて見るけれど何だろう? この場所には小さな芽がたくさん出てきているけれど、何になるのだろう? 16,000㎡の敷地ですから、歩いてどんな植物がどこに生えているのか調べるのも、大変で楽しかったですね。まだまだ知らない植物がたくさんあるんです。
- ――描くイラストは変わってきていますか。
- フリーランスのイラストレーターとして20年仕事をしてきました。クライアントがいたり、誰かの文章があったり。私は「作家」ではありませんから、誰かのために描いてきたわけです。今、20周年記念の個展の準備をしているのですが、だからテーマを「贈り物」にしようと考えているんです。見ていただく方への贈り物でもあり、そのイラストも誰か大切な人への贈り物にしてもらいたい。イラスト以外のプロダクツも同じです。ここmitosayaが、私たちへの贈り物だとしたら、ここに暮らす私は、モノづくりを通して誰かに贈り物を手渡す――そんな気持ちでいます。
- ――今日、つけていらっしゃるピアスも、ご自身でデザインされたのですね。
- 【minori】というシリーズで、私がデザインしています。蒸留を学ぶ夫(醸造家の江口宏志さん)と娘2人とともにドイツに1年間住んでいたとき、野生のバラが咲くところがありまして。花が枯れると今度は実、ローズヒップが生るんですね。真っ赤な実が可憐で力強くて、その姿をアクセサリーにしました。
- ――このサイトを読んでくれた方へのプレゼントにもしてくださいました。
- はい。ピアスはできない方もいらっしゃるから、ネックレスとリングをプレゼントにしたいと思います。これも、私からの贈り物ですね(笑)。人生って常に課題があって、そのただなかにいることを感じながら走っていますが、今ようやく上でもなく下でもなく、「真ん中」にいる人になれた気がしているんです。自分が自分の中心になれたような、そんな感覚を今の暮らしの中で感じています。
- ――自分が自分の中心になれた……面白い表現です。
- 自分を肯定する。自分を癒す。自分を認める。自分を許す。……全部、自分にしかできないと思って生きているという感じです。誰かがこうしろと言ったからするのではなく、自分が決めて、自分が仕事を作り、自分が働き、暮らしている。そう感じられるのは、とても幸せなことだと思っています。
- ――クリエイターとしての自信でもあるのでしょうか。
- どうでしょう……。でも、自信がなければ、クリエイターではないと思いますね。何を作るにしても。たとえば、デルメッド インナープロテクト ジェルという製品ですが「日焼けの原因にアプローチして、日焼けにさせない」なんて、開発者に自信がなければできませんよね? 誰かに感動を与えることができたら、それが作品を作る側の喜びなんです。
●第4回は、山本祐布子さんの「これからの自分」についてお聞きします。お楽しみに!
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山本祐布子(やまもと・ゆうこ)
イラストレーター
東京生まれ。京都精華大学テキスタル学科卒。雑誌、広告、プロダクトデザインなどを手がける。現在は、千葉県大多喜町にあるmitosaya薬草園蒸留所の取締役として運営に関わると同時に、オリジナルブレンドティーを考案。ティーだけでなく、シロップなど新製品の試作、毎月行われるオープンデーの料理などを担当している。二児の母でもあり、犬や猫、鶏と暮らす多忙な毎日を過ごす。
撮影・青木和義 ヘア&メイク・布施綾子 構成と文・越川典子