会いたかった人
【ずっと会いたかった人】わくわくするエプロンを作る「エプロン商会」の滝本玲子さん、市村美佳子さん(1/4)
イギリスのリバティプリントやヴィンテージの布でエプロンを作って7年。コアなファンから熱烈な支持を得ている「エプロン商会」。作っているのは、「布大好き」なお2人、ディレクターの滝本玲子さん、フラワーデザイナーの市村美佳子さん。いろいろなエプロンを見せてもらいました。
お2人には、次回から「チェスト一つのお店のこと」、「布とデザインの話」、「エプロンを着こなすコツ」など、4回にわたってお話を伺います。
- そもそも、なぜお2人でエプロンを作ろうと思ったのですか?
- 滝本:「まいにちエプロン」という展示即売会を始めて7年たつのだけど、その名の通り、大人の女性が1日中つけていたくなるようなエプロンを作りたかったのね。でも、そもそも……って質問には、美佳ちゃんが話さないとね!
- 市村:ですね~。私は、フラワーデザインの仕事をしているのだけれど、あるとき「プリザーブドフラワー」を作ってほしいと言われて、好きではないけれど「お仕事だから」と引き受けたことがあったんですね。ところが、その仕事を続けていくうちに、どんどん元気がなくなってしまって。そのうち、大好きなはずの「生花」を生けていても、まったく楽しめなくなったんです。
- 滝本:やさぐれていたわよね。
- 市村:そう(笑)。そんなとき山形でオーガニックの薔薇を育てている方からバラが届いて、その花を生けていたら、なんて綺麗なんだろうと涙が止まらなくて……。嫌いなことを続けていてそれを感じないようにしていたから、自分が好きなことも感じられなくなっていたのだと気がついたのです。じゃ、今でも「好き」と言えるものって何だろうと考えたときに思い出したのは、中学生の頃、母のやっている美容室のスタッフのためのエプロンを手作りしていたこと。布屋さんに行って、布を選ぶのは、お宝探しのように楽しかった。そして、好きなエプロンの型紙を新聞で作って、胸のところにスタッフそれぞれの名前を刺繍して、商品みたいに綺麗に畳んで、みんなに手渡した時の笑顔。「エプロン、大好きだったな」って思い出しました。そんな時、ちょうどロンドンに旅行に行って、母にお土産にリバティで布を買った布でエプロンを作ってあげたら、とっても喜んでくれて。
- 滝本:小花柄の服は、大人の女性にはなかなか難しいけど、エプロンだったら何歳になっても大丈夫だしね。
- 市村:玲子さんみたいに、かっこいい大人の女性がつけられる小花柄のエプロンが作れないか、と思い始めて、相談したのがきっかけです。
- 滝本:美佳ちゃんが「毎日が楽しくなるエプロン作りたい」って言うから、「あら、アンティークのエプロンたくさんあるわよ」って(笑)。
- 市村:玲子さんって、素敵なもの何でも持っているんです。私、リバティプリントでエプロンを作ってみたいのだけれど、と話したんですね。
- 市村さんが相談して、滝本さんはどんな反応だったのですか。
- 滝本:まるごとリバティプリントのエプロン? 面白い! と思った。
- 市村:意外と、全部リバティで作っているエプロンって、ないんです。
- 滝本:私はもともとリバティが大好きだったし、ヴィンテージのテーブルクロスやベッドカバーもたくさん持っているし、古い布をタオルの代わりに使っているし、そのくらい布が好きで。別に、悩み多き美佳ちゃんを助けたいと思ったわけじゃないの(笑)。
- 市村:で、一緒に立ち上げた。それが2013年。洋服大好き、おしゃれ番長の玲子さんみたいな、かっこよくて、パンチの効いた大人が着られるエプロンを作り始めたわけです。
- 滝本:あ、私たち、同郷なの。山形。中学・高校の先輩・後輩(笑)。エプロン、私はそれまでしていなかったのだけれど、美佳ちゃんと話しながら思った。これ、洋服なんじゃない? って。だってこのエプロンなら、東京中歩けるもの。ジャケットはおって。
- 市村:その姿がまた、かっこいいわけです(笑)。
- エプロンつけると、気持ちが切り替わるんですね。
- 市村:「世界でいちばん簡単なコスプレ」と言っています。つけるだけで、森のパン屋さんにもなれれば、エレガントなマダムにもなれる。たった1枚の布なのに、こんなにわくわくできる……。エプロンって日常使いのものだけれど、ハレの日のエプロンだって、あっていいと思うのよね。
- 滝本:つける人の年齢も関係ないわね。10代から80代までつけられる。そう、メンズも好きよね、うちのエプロン!
- 市村:リバティの花柄って、メンズにも人気なんです、不思議と。長さもあるので、身長の高い男性でも似合うから。展示即売会をすると、「自分用に」と男性たちが買って帰るの(笑)。
- 滝本:エプロンつけている自分がうれしいのよ。
- 市村:わかる。母は、エプロンをつけるとほっとすると言っていましたね。私も、アトリエでエプロンをつけると、仕事モードにパッと切り替わる。つけるとシャキッと元気になるし、つけている自分が誇らしくなるんですね。
- 「エプロン商会」という屋号もかわいいですね。
- 滝本:候補は「エプロン商会」1個だったの。ちょっと古くさいし、懐かしいし。こじゃれた名前はイヤだったしね。
- 市村:すぐでしたね。これがいいね! と。
- 滝本:キャラは違うけど、2人、好きなものが似ているのかな。エプロン商会というからには、制作して、利益をちゃんと出して、販路を確保して、と本気の本気ですよ。
- 市村:「がんばろうプロジェクト」なんです。でも、ムリしない。イヤなことはしない(笑)。
- 滝本:私たち、包容力とか、ないから。
- 市村:自分たちが気持ちいいと思うものを我慢しない。自分たちが楽しいと思うことをする。もしそれを「美しい」とか「かっこいい」とか思ってくれたら、とってもうれしいですよね。
- 滝本:我慢しないで生きるほうがかっこいいと思ってる。気持ちが動く通りにする。したいと思ったら、試してみる。何かあっても結果は引き受ける。後悔はしない。
- 市村:身につけるもの、肌につけるものもそうよね。
- 滝本:シンプルで気持ちがよいものがいちばんよ。
●第2回は、熱い声に応えて出した「小さなお店」のお話を聞きます。お楽しみに!
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右・滝本玲子(たきもと・れいこ)
ディレクター、デザイン事務所主宰。雑貨バイヤーとして、店舗企画等に関わる。2011年に東京・西麻布にて喫茶店「R」をオープン。器やファッションアイテム、アート系、デザイン系の企画展を多数開催している。
左・市村美佳子(いちむら・みかこ)
フラワーデザイナー、緑の居場所デザイン主宰、オーガニックフラワー研究所代表。東京・南青山に花教室&スタジオを置く。広告や企業イベントの花装飾も数多く手がけ、雑誌や花カレンダーも。定期的に「花瓶専門店」を開き、花瓶と花の出合いを通して、花の魅力を伝えている。
http://apronshokai.com/
Instagram@apronshokai
撮影・青木和義 ヘア&メイク・長網志津子 構成と文・越川典子