モデル・優恵の笑顔日記「明日も笑う所存です。」

ESSAY vol.18

エッセイ

【モデル・優恵の笑顔日記『明日も笑う所存です。』】 Vol.18「今年の秋はシックに行こうかしら、と思っています。」

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2021.9.29

黒が好きだったことを思い出しました。

30代の後半から、顔が淋しく見えるように思えて、暗い色の洋服をあまり着なくなりました。「黒を着るの、珍しいね」と言われるくらい、黒い洋服を選ばなくなって随分になります。黒いタートルのリブニットとマーメイドラインのスカートに黒い編み上げのブーツを合わせる、20代前半に気に入っていた全身黒のコーディネートです。あの頃のようにキリッと黒を着こなす自信はありませんが、今の年齢なりに黒の柔らかさというものを愛でながら纏うことができたら嬉しい、と思うようになりました。

suzuki takayukiの麻のサロペットは、黒が好きだったことを思い出させてくれました。

色鉛筆の持ち腐れ。

「あんなにたくさんあった色鉛筆、どこに行ったんだろう」と家の中で思っていました。わたしは日頃、手帳に予定を書き込むのも、買い物のメモも、夜の献立を書いておくのも、友への手紙も、だいたい鉛筆を使います。色鉛筆はちょっと色が欲しいとき、お誕生日のカードなど楽しい手紙にしたいときに使っています。ある日、棚の整理をしていたらイグサの蓋付きの入れ物が出てきました。中には大量の色鉛筆、クレヨン、パステル、絵の具などお絵描きの道具が。すごく絵を描く人のような持ち物ですが、それほど絵を描くわけではありませんので、思い切って色鉛筆の大半を仲良しの1年生の男の子に使ってもらうことにしました。

「こんなところにあったのか」の色鉛筆。ダーマトグラフもよく使います。右下の赤いセットはニューヨークへ初めて行ったときに小さな画用紙帳と一緒に買ったもので、水で色をぼかすことができます。

外国のお金はおもちゃではありません。

引き出しの奥に、しまったことさえ忘れていた封筒がありました。ベトナムで泊まったホテルの封筒に何を入れたのだったかな。中を見たらいろいろな国のお金でした。わたしが子供の頃、父の勤め先の同僚で海外赴任が長かったご夫妻が、外国を知らないわたしに茶色い10セントと銀色の25セントのコインをおみやげにくれたことがありました。わたしの小さな手のひらに外国が載せられたのです。それ以来、外国のお金はおもちゃじゃないとわかっていても、並べて眺めて楽しむもの、まだ見ぬ国へつながる小さな扉になりました。

大人になっても、コインを使い切らずに記念に持ち帰る癖がついています。

母のおやつ。

ある日、親しい友人から甘納豆が届きました。好物だと話したのを覚えていてくれたようです。幼いわたしの記憶にある最初のおやつは大納言の黒い甘納豆でした。母の好物ですので「母のおやつ」に手を伸ばすという印象がありました。小さな粒をひとつずつ口に入れる楽しみがあったのかもしれません。フランスの果物の砂糖漬けやマロングラッセはきっと同じ気持ちで作られたおやつだと思っています。素朴で贅沢な「母のおやつ」に今日も手を伸ばします。

丹波甘納豆本舗の甘納豆です。左上から福白金時、とら豆、栗甘納豆。菓子皿は祖母の形見分けでわたしが引き継いだものです。

優恵

ゆえ

モデル・俳優。ティーン誌『mc Sister』の専属として活動を始め、カバーモデルをつとめる。『non-no』『SO-EN』など多くの女性誌、TVコマーシャル、ファッションショーなどで活躍。20代後半からは映画、ドラマに出演し、活動の場を広げる。近年の出演作品に、美玖空トライアル公演「女は女で、女である」(2021・美玖空 脚本/演出)、『秘密のフレグランス』(2021・富田大智 監督)、『Motherhood』(2019・萬野達郎 監督)、『しあわせだったにゃよ』(2019・利重剛 監督)、『午後の悪魔』(2017・中村真夕 監督)、『アイズ』(2015・福田陽平 監督)、『PASSION』(2008・濱口竜介 監督)、インスタシネマ『女図鑑』(2019・美玖空 脚本)などがある。ドラマとファッションとおいしいものと花をこよなく愛する。フォトエッセイ『昼寝の前に』を連載中。https://6ropeway6.com/

撮影・青木和義

文と写真・優恵