会いたかった人
【ずっと会いたかった人】日傘作家のひがしちかさん(4)
都会から山の家にアトリエと住まいを移し、新しい作品がどんどん生まれています。日傘作家としてだけでなく、「手」を通して世界にメッセージを送る一人の作り手として、ひがしちかさんが「これからの自分」を話してくれました。
- これから、どんな作品を作っていきたいと思っていますか?
- 4年前から東京都現代美術館のポスターの絵を描いたり、小説の装丁をしたり、仕事の幅は広がっています。面白いです。傘は一(いち)からすべて自分で手掛けるのに対して、ポスターなどは企画する人がいて、テーマがあって、デザイナーがいて、コピーを考える人もいる。共同作業ですよね。ですから、料理でいえば「おいしい素材を作る」と思って描いています。「個展は開かないのですか?」と聞かれることもあって、本当はすぐにでも開きたい。絵本も、いつか描いてみたいと思っているんです。
- これからも守っていきたいものを教えてください。
- 傘の柄、つゆさき、ハンドル、骨……傘の業界は、すべて分業なんですね。私の日傘も、日本の職人さんがいないと成り立ちません。ただ、この10年で看板を下ろしてしまった職人さんが何人もいるんです。業界自体、7年後、10年後どうなっているのかわかりません。ずっと、自分の手から表現するものにこだわって制作をしてきました。世界に一つしかない、大量生産ではできない美しさがあって、それらがすごくいとおしい。なくなることを考えると、泣けてくるほど悲しい。どうしたらいいのか、どこまで守っていけるのか。今後も、課題と向き合っていかなくては……と思っています。
- 色の幅もどんどん広がってきますね?
- 実は今、絵具のこと、染料のことをあらためて勉強し始めているんです。山の家は下水処理場がなく、浄化槽でバクテリアが分解するシステムなので、化学的な絵具をそのまま流せないのです。じゃ、何で描こうかと考えると、環境に負担のないものはないのかと。植物をそのまますりつぶして染料にしたり、化学物質が一切使われていないドイツの絵具を試してみたり。絵具の歴史から調べています。考えてみたら、山の暮らしをしていなかったら、たぶんこんなこと考えなかったと思うんですね。関心は尽きなくて、もっともっと学びたい。「表現」という言葉の意味は広くて、描く「手段」までも含まれるのかもしれませんね。
- 制作するひがしさんを見ていると、手の動きから目が離せません。
- 「手仕事」にはこだわっています。どこまでいっても、「手でコシラエル」は変わらない。大事にしていますよ、私の働きものの手を。日傘の制作だけじゃなくて、水仕事、畑仕事、おむつも替えれば、薪も運び、木も植える。だから、しょっちゅうハンドクリームを使っています。絵を描く前にハンドクリーム、手仕事する前にマッサージ。水仕事したあとにも、寝る前にもぬります。このデルメッド ハンドクリームは香りもよくって、でもすぐ消えてくれる。ぬったあともべたつかない。さらっとしているので、すぐに制作にかかれるのもうれしいです。
関連記事
ひがしちか(ひがし・ちか)日傘作家
1981年、長崎県諫早市生まれ。文化服装学院卒業後、アパレルの仕事などを経て独立。1点ものの日傘ブランドとして「Coci la elle(コシラエル)」を、2010年にスタートする。ブランド名は、手仕事で「拵える」からとった。ブランド名通り、ひがしさん自身が一本ずつ手書きや刺しゅうをほどこして日傘制作をしている。現在は、オリジナルプリントの雨傘やスカーフ、ハンカチ、アイフォンケースなども制作・販売する。東京・清澄白河、神戸と2軒のショップをもつ。2017年に長野の八ヶ岳山麓にアトリエと居を移し、さらに精力的に制作を続ける。ビジュアルブック『かさ』(青幻社)がある。
https://www.cocilaelle.com/
撮影・黒川ひろみ 前田和尚 構成/文・越川典子