大胆な手描きの絵、繊細で美しい刺繍――「世界に1本だけの日傘」を作る人が、ひがしちかさんです。ブランド名は「Coci la elle(コシラエル)」。手仕事に最大級の愛を込め、「拵える」という日本語からつけたと言います。東京・清澄白河にある本店で、ちかさんのものづくりの姿勢を聞きました。
- 東京の下町・清澄白河にコシラエルをオープンして、もうすぐ10年ですね。
- はい、早いものです。清澄白河は、ほんとうに大好きな土地なんです。下町のあたたかさが残っていて、ものづくりの町でもありましたから、まだまだ職人さんもいるんですよ。この店も、以前は、紙の型屋さんで、その前は材木屋さんだったそうです。2010年に「コシラエル」を立ち上げて、4年前に本店をオープン。当時は、娘と2人でここに住んでいました。そう、シングルマザーでしたから、とにかく目の前のことをするだけで精一杯。私は勤め人には向かないけれど、絵を描きたい一心で、1日中寝る間も惜しんで傘を作り続けていました。来年が10周年。続けられて、本当に幸せなんです。
- 大胆な色使い、絵柄にパワーを感じます。創作のヒントはどこから?
- 私にとって、日傘が「日常の道具」だということが、とっても意味があることなんです。雨や紫外線から守ってくれる傘には、使う人の年齢も性別もないですよね。国境もない。誰もが必要としていて、当たり前に人に寄り添ってくれる。傘を家に見立てて、ままごとをしたことも覚えています。一番小さな「家」。自分の空間、自分自身の延長だとも思っています。そこに描くのは、やはり「私の日常」なんです。娘の描いた絵から影絵のような絵を描いたこともあれば、水茄子があまりにも美しくてコラージュしたことも。朝焼の色。川の水。枯れ葉、果物。子どもたちの笑い顔。何でもない日常にこそ、きらきらした美しさが散らばっているんです。私は、それを日常の道具である傘にのせるだけ。
- ショップで日傘を見ていると目移りしてしまいます。選び方、教えてください。
- 自分の感覚で選んでください。ピンときたもの。それを、必ず開いて、さしてみてくださいね。そうして、これ! と思って選んでほしい。ネットでも購入できるのだけれども、一度はショップで手に取ってみてほしい。大きさ重さ。持つ柄の感触。私は「試着」って言っているんです。だって、日傘をさした姿が、「全体」になるわけでしょう? 洋服は実際に着てみるのに、日傘を試着しないのは不思議。こんなに毎日暑い日が続くのですから、日傘は女性も男性も必需品。ファッションの延長、もっと言えば、自分自身の延長なんだと思っています。好みのパーツを替えられる傘もありますし、楽しんでほしい。
- 今、3人のお子さんがいますが、どんなお母さんですか?
- 「ダメ!」とか「やめなさい!」とか、あまり言わないほうかもしれないですね。子どもがいたずらしても、なぜそんなことしたのか見ていると面白くて。変わってるのかもしれませんね。娘には、「授業参観には、ふつうの恰好をしてきてね」と念をおされます(笑)。私はそんなに変わっているとは思わないのだけれど…母にはよく、「人前ではちゃんときれいにしていなさい」って言われます。ですから、毎日はお手入れは欠かさないのですが、そうすれば肌は応えてくれるし、自分に変化があらわれるのはすごく楽しい。私は「日傘作家のひがしちか」でもあり、ある意味、店は「ステージ」でもあるのかな、と最近思います。お客様、スタッフに会うときはもちろん、家族の前でも少しでもきれいでいたい。それは自分の心地よさと自身のためでもあります。だから、まじめに基本のスキンケアは続けています。
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ひがしちか(ひがし・ちか)日傘作家
1981年、長崎県諫早市生まれ。文化服装学院卒業後、アパレルの仕事などを経て独立。1点ものの日傘ブランドとして「Coci la elle(コシラエル)」を、2010年にスタートする。ブランド名は、手仕事で「拵える」からとった。ブランド名通り、ひがしさん自身が一本ずつ手書きや刺しゅうをほどこして日傘制作をしている。現在は、オリジナルプリントの雨傘やスカーフ、ハンカチ、アイフォンケースなども制作・販売する。東京・清澄白河、神戸と2軒のショップをもつ。2017年に長野の八ヶ岳山麓にアトリエと居を移し、さらに精力的に制作を続ける。ビジュアルブック『かさ』(青幻社)がある。
https://www.cocilaelle.com/
撮影・黒川ひろみ 前田和尚 構成/文・越川典子