会いたかった人
【ずっと会いたかった人】インテリアスタイリストの石井佳苗さん(2)
おしゃれな暮らしをする人は、誰もが「自分のスタンダード」を持っている気がする。一生つき合えるものがもつ魅力って何なのだろう? どうやってスタンダードを選んでいるのだろう? 教えてもらいたくて、憧れのインテリアスタイリスト・石井佳苗さんの事務所兼ご自宅へ。石井さんのスタンダードのひとつでもある、オレンジとシナモンのフレーバーの紅茶を淹れていただきながら、お話を伺った。
- 最近、新しくした家具はあるのでしょうか。
- 長年、四角いテーブルを使っていたのですが、今は、丸テーブルにしています。丸い形はやわらかくて、つめれば何人でも座れる(笑)。皆で囲んで、話したり、食事したり。隣の人と肩が触れ合ったりして、家族や仲間の気持ちの距離が近くなる気がしますね。こんなふうに、私は、家具は一生ものと思っていないんです。家に合わない。好みが変わってきた。使いにくくなった。そんな場合は、家具もアップデートしたほうが楽しいし、ストレスもありません。アンティークやヴィンテージは、私は大好きなのだけれど、そればかりの部屋は重くなってしまう。新品のテクスチャーをミックスすることで、ぐっと洗練されて、軽快になるんです。値段が高いからいいとも限らない。私はよくIKEAのPSコレクションをチェックするのですが、面白いなと思ったら買って、実際に使ってみることです。新たなマイ・スタンダードを見つけられるかもしれませんよ。
- スタンダードが変わるということは、自分の基準が変わったということですか。
- 髪の色一つとっても変わるって、最近知りましたね。私はずっと「黒髪でボブ」がスタンダードだったのだけれど、だんだん黒が似合わなくなってきたんです。肌や髪の質感、ボリュームが変わってきたのだろうけれど、一番は気持の問題かな。ある方から「髪を明るくしたら、気持ちも明るくなった」と聞いて、私も、明るいブラウンとアッシュと2色で髪の色を変えてみたんです。すると、ぱーっと気持ちも晴れて、周囲の反応もすごくいい(笑)。ただ、今まで好きだった太く黒いフレームの眼鏡がまったく似合わなくなってしまったんです。面白いですね。一度もかけたことがなかったソフトブラウンの縁の眼鏡がしっくりきて、着るものもスモーキーな色を選ぶようになったんです。不思議なものですね。
- ずっと長くスタンダードであり続けるものを教えてください。
- 一生そばに置いておくだろうなと思うのは、カッシーナをやめるときに自分のために買ったジオ・ポンティの<スーパーレジェーラ>、リートフェルトの<ユトレヒト>、大先輩の形見分けでいただいた椅子、の3つです。思い出もですが、デザインとしても秀逸で、名作として知られているものばかりです。<スーパーレジェーラ>は、指一本でもてるほどの軽さ、すばらしいバランスのデザインです。買った当時は白木だったのが、飴色の変化してきたのも愛着があります。思い出や人生と重ねているところもあるけれど、マイ・スタンダードと言えるのは、やはり「名作」だからですね。いつ見ても美しいし、いつ座っても感動がある。そういうものと巡り合えたのは幸せですね。
- 基本に立ち戻るときって、どんなときですか。
- アンティークやヴィンテージが好きなのは、長い時間やたくさんの人の目で選ばれてきた何かに惹かれているのではないかと思っています。どうしてその形なのか、このデザインになったいきさつは何か、考え、感じとろうとします。化粧品だって、そう。いいものはロングセラーで残るし、いつものものがあるという安心感、見るとほっとするという基本は、毎日使うスキンケアにはとくに必要かと思いますね。同時に、化粧品ってプロダクトだから、中身はどんどん新しい技術でアップデートしているのだと思うし、そういう努力を重ねているメーカーのものを選びたいと思っています。
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石井佳苗(いしい・かなえ)インテリアスタイリスト
インテリアの大手家具メーカー、カッシーナに勤務後、独立。インテリアスタイリストとして、またDIYの名手として、雑誌やウェブサイト、広告などで活躍。自宅をDIYでセルフリノベーションして大きな話題に、DIYブームを牽引した。その工程はすべて『Love Customizer 1,2』に収めた。他に『DAILY LIFE』『Heima』などの著書がある。主宰するウェブマガジン「Love customizer」http://www.kanaeishii-stylist.com/
撮影・黒川ひろみ ヘア&メイク・レイナ 構成/文・越川典子