会いたかった人
【ずっと会いたかった人】デザイナーの阿部好世さん(1)
10年前、夢みるように軽いコットンパールのネックレスで、世のファッショニスタを魅了したデザイナー・阿部好世さん。驚くほど強靱な意志と粘り強さで、ワクワクするようなデザインをくり出す秘密を教えてもらいました。
- デザインしたアクセサリーを、どんな女性につけてほしいと思いますか?
- 「女性をきれいに見せたい」。ずっとそう思ってデザインをしてきました。その象徴が、ブランド名でもある「petite robe noire(プティローブノアー)」、小さな黒いドレスです。アクセサリーが映えて、女性を最も美しく見せてくれる。不思議と、一人ひとりの個性がより際立ってきます。だから、プティローブノアーのミューズに理想のイメージはないんです。身につけてくださる人、一人ひとりがミューズ。たとえば(私の)母がつけるのなら、この形のほうがいいかなとか、アメリカの友人だったら、この色が映えるかなとか、年齢も国籍も、肌の色もさまざま。デザインをすることって、私にとっては心の中でするギフトのようなものかもしれません。
- 「プティローブノアーのアクセサリーは楽しい」という声をよく聞きます。
- うれしいです。私もいつも思います。もっと自由に、もっと楽しんで、もっと遊んでほしいって。全身のファッションをがらっと変えるのは勇気がいりますが、アクセサリーなら冒険ができます。2本のネックレスをつないで使う人、ネックレスをブレスレットのように手首に巻きつける人。「ベビーカーにプティローブノアーのアクセサリーをつけたおしゃれな人を見かけた」と話してくれたお客様もいました。あ、そんな使い方があったんだ、と教えられることもたくさんあります。「こうでなければならない」というルールは、ことファッションにはありません。身につけてくれた人の1日が変わるような、アクセサリーにはそんな力があると思っています。
- デザインの発想って、どんなところから生まれているのですか?
- 私は新潟の田舎で育ったので、キラキラした記憶は”自然”なんです。山の緑色の連なりや、その中で咲きかけた花の色はうっすら美しくて。野いちごの赤。空の青、夕暮れの雲の色が微妙に移りかわる様子。川の水面の光。・・・心が揺さぶられる感覚は私の心の中にしっかりあって、当然デザインにも反映していると思います。そう考えてみると、心がザワザワしたり、キューッとしたり、私は今でも心揺さぶられることを求めている気がします。なぜなら、自分自身がワクワク、ドキドキしていなければ、お客様が身につけてワクワクするものなど作れないと思っているからです。
- ワクワクさせてくれるものって、何でしょう?
- 私をワクワクさせてくれるもの。その大事なものの一つが、ART。とくに現代アート、絵画が好きです。NYに住んでいた頃からですね。あの街は環境そのものがARTなんです。ギャラリーはどこにでもあるし、「あれ見た?」「見た見た!」という会話がふつうに成り立つ。小さなギャラリーで個展をしていたアーティストが、あっという間に有名になったりするのもNY。訪れるたびにギャラリー巡りをしています。日本でよく訪れるのは、東京・大塚にある現代美術ギャラリー「MISAKO&ROZEN」。オーナーディレクターのローゼン美沙子さんと夫のジェフリーさんは、長年の友人です。「美しさって何だと思う?」と、美沙子ちゃんに聞いたことがあります。美沙子ちゃんは、「そりゃART! ARTって、一般的にはゴミと思えるものにも、美しさを見ることができること」と言ったのです。私には、その意味がよくわかります。つまり、「心を動かされること」、それこそが美しさだと思っているんです。
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阿部好世(あべ・よしよ)「プティローブノアー」デザイナー
新潟生まれ。高校卒業と同時にアメリカへ留学、NYでファッションを学ぶ。蚤の市で出合ったコスチュームジュエリーに魅せられ、帰国後2005年にオンラインショップを立ち上げる。2007年に直営店「petite robe noire」を東京・恵比寿にオープン。2年後には「古いものと新しいものをつなぐ」という考えのもと、日本の職人とともにコスチュームジュエリーのコレクションを発表、進化を続ける。その後、「YOSHIYO」ブランドでジュエリーラインも発足、2015年にはウェアコレクションもスタートした。
撮影・前田和尚 構成/文・越川典子