パステルカラーが印象的な、大人気のイラストレーター、松尾たいこさん。熱烈なファンもたくさん。よく知られている話だけれど、イラストレーターとしては35歳デビューという超遅咲き。人生も作品も、さまざまな変化を体験してきた松尾さんは「若い頃よりずっと、今の自分が好き」と笑います。何だか、とても幸せそうな笑顔を見ながら、ふむふむ、どうしてそう思えたのですか? 聞いてみたくなりました。
※今回から2回にわたって、松尾たいこさんのお話を伺います。猫をかたどった陶芸作品「にゃん香」のプレゼントもあります。
- ――松尾さんの作品は、色がとてもきれいです。一体松尾さんは、どんなふうに世界が見えているのか、不思議でした。
- 不思議でしたか~(笑)。そうですね。たとえば、あの空、見てみて。青い空と白い雲が浮かんでいますよね。よく見ていると、雲にかげりがあったり、陽があたって少し赤みがかっていたり、黄色っぽく感じる部分があったりしませんか? 私には、割とそれがはっきり見えるのかもしれませんね。
- ――色使いって、変わるものなのですか。
- 大きく変わったのは、2011年の東日本大震災でしたね。暗くなっていく気持ちを、ことさらパステルカラーで補っていた気がします。最近です、自分の中に「色」があるのだから、外に(絵の中に)色を求めなくてもいいんじゃないか、と思うようになってきたのは。自信みたいなものができたのかもしれません。
- ――色って、そんなに気持ちが投影されるものなのですね。
- ずっと使えなかった濃い色も使えるようになった、というか、使いたいと思い始めました。ほら、この紺色もそう。思えば、10代のころは20代になるのが怖くて、20代になったら30代になるのが怖かった。そのあとは怖すぎて。若さを失ったら何も残らないと思っていました。ところが、40代はすごく楽しかったし、50代になった今がもっと楽しい。どんどん自由に、どんどん楽しくなってきました(笑)。
- ――風景を描いた作品から、抽象的なテーマを描くようにもなっていますね。
- 伊勢神宮や古事記の仕事をいただいてからですね。森羅万象に神が宿るという古代日本の考え方にすごく共感したということもあって、古来の神々や抽象的なイラストを描くようになりましたね。世界を構成している「火・風・水・土」という四元素も描いて発表しました。今日お見せしている絵は、その中の「風」。
- ――山の上に向かって舞っているのは、鳥ですか? 葉っぱですか?
- ふふふ。これは、風の形。私には、風がそういうふうに、そういう色に見えちゃったんだものね。最近は、ラメの入った絵具を使い始めていて、それは作品の中に「光」とか「幸福感」とかをのせたいと思っているからなんです。
- ――インスタグラムでも、絵のことをすごく発信しています
- すごい人見知りなのに、人に会うのが大好き。コロナ禍で、この1年半は会うのは難しかったから、インスタグラムを頑張ったんです。発信するようになって、ものすごく変わりました。考え方も、人間関係も、絵も。今まで、絵は、見た人がそれぞれが感じてくれればいいと思っていたけれど、もっと積極的にアーティスト側もメッセージがあってもいいのではないか。というか、もっと伝えたいと思い始めたんですね。すると、今までの日常では出会わなかった人たちとの新しい出会いがたくさんあって、距離的にはすごく遠いのに、気持ち的に近い人がたくさんいる。それが、今の作品のテーマにもなっています。
- ――そのテーマとは?
- 「見えないけれどつながっている」「会えないからこそいとおしい」――実感している気持ちをテーマに作品制作中です。私が絵を描く理由って何だろう? そう思ったとき、「誰かの笑顔が見たい」からだと気づいたんです。どこかにいる一人に届く作品を描きたい。その中で、「ゆきあう」プロジェクトを今年から始めたんです。
- ――ゆきあうとは、行き逢う、出会うという意味ですか。
- そうです。ペットの絵をオーダーで描くんです。私自身、以前飼っていたケアンテリアのいくらちゃんを亡くして1年、引きこもり状態だったことがありました。今は、メルマガのみの告知で、1回目の募集は半日で定員に、2回目は予約の方だけで埋まってしまったのですが、機会があれば、見ていただければと思います。
- ――毎日、充実していますね。
- 充実かな。何より、楽しいですね。こうしたいと思ってから行動するまでの時間が、すごく短くなってきています。時間は流れていくから、行動しないともったいない。昔からすると考えられません。私なんて、何もできないと思っていましたから(笑)。
- ――自分を出せるように変わった、最初の一歩は何だったのですか。
- 大きかったのは、夫(ジャーナリストの佐々木俊尚さん)との出会い。料理も掃除も、何もできないと言う私に、「君は、絵を描けるのだから、他のことはできなくてもいいんじゃない」と。その瞬間、私は自由になって、今もどんどん自由になっています。
- ――自分が変わっていくこと、あるいは変えようとすることは楽しいですか。
- 行動しながら「自分で変えられる」とわかってきたんだと思いますね。たとえば、英会話。ずっとコンプレックスだったのが、フィリピンのセブ島に語学留学。以前の私では想像できなかったことです(笑)。つきあう人も、よく会っていた人がまったく会わなくなったり、年齢や環境が全く違うのにすごく気持ちよく過ごせる人に出会ったり。〇〇だからダメとか、△△だからいいとかではなく、変化を自然に受け入れられるようになりました。
- ――年々、カラダも肌も変わりますよね。その変化は?
- そうね。私は元気でいないと、おしゃれする気にもなれないんです。以前の私は2日に1度は頭痛があり、疲れるとすぐに湿疹が出るし、しょっちゅう風邪をひいていました。疲れやすくて、2日続けて外出することはできなかったのね。骨盤トレーニングや食べ物も気を付けて、ここ数年「別人ですか?」と言われるくらい元気になりました。昔の私を知る人からは「以前のたいこさん、蚊みたいだったよね」と(笑)。失礼ですよね! でも、きっと細いカラダで、ふわふわしていたんじゃないでしょうか。
- ――ラメの絵具と一緒に、トレーには愛用のクリームがあります。
- きらきらのラメを絵に使うようになったように、年々、私自身にもきらきらが必要かなと思うようになりました。あまり見たくないシワやシミも出てきますし。ハリやツヤはほしいから、同時にケアしてくれるデルメッド プレミアム クリーム No.1は大好きなんです。スキンケアも、メイクもヘアも、こまめにアップデートする。今一番いいもの、今を感じさせることって、テンションを上げるためにも大切だと思いますね。
- ●第2回は、8月5日配信。東京・軽井沢・福井と3拠点生活をする松尾さんのお話です。
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松尾たいこさん(まつお・たいこ)
イラストレーター、アーティスト
10年間の会社員生活を経て、32歳で上京。セツ・モードセミナーにて本格的にイラストを学び、35歳でイラストレーターとして独立。第16回ザ・チョイス年度賞、鈴木成一賞受賞。広告、CDジャケット、書籍の装画、雑誌など、幅広い分野で活躍。2014年より「千年陶画」プロジェクトで陶器の制作を始める。現在、東京・軽井沢・福井の3カ所を拠点に活動中。著書に『古事記ゆる神様100図鑑』、作家の江國香織さんとの共著『ふりむく』、角田光代さんとの共著『Presents』『クローゼットがはちきれそうなのに着る服がない! そんな私が、1年間洋服を買わないチャレンジをしてわかったこと』など多数。最新刊は、34枚のイラストがおさめられた『数秘オラクルカード』(著:はづき虹映/絵:松尾たいこ)。2021年9月18日(土)~26日(日)まで東京・渋谷区代官山にて、「森羅万象」をテーマに3年ぶりに個展を開催する。
HP https://taikomatsuo.com/
Instagram @taikomatsuo
撮影・黒川ひろみ ヘア&メイク・成澤雪江(ツイギー) 構成と文・越川典子