人生の転機を迎える場面では、いつも自分で決断をしてきた。結婚も新しい家族も料理教室も。自分を支えているものは何か、決断の基準は何だったのか。サルボ恭子さんの今の暮らしから見えてくるものがありました。
- ―――休日は「アペロ」でゆったり食事を始めるのが習慣、とサルボさんの本で知りました。
- 「アペロ」とは「アペリティフ」、つまり食前酒を飲む? という意味です。休日に限らず、フランス人は常に「アペロする?」と言いますね。アペロだけで食事なし、なんてこともざらで、その場合はたっぷりアペロを楽しみます。休日はもっとゆったり時間をかけて。おつまみは簡単なものでよくて、このタルティーヌはよく作ります。
- ――「フランス式のっけパン」と、サルボさんは言いますね。
- タルティーヌの語源は「タルティネ」。「塗る」という意味です。スライスしたパンに、バター、ジャム、チョコレートスプレッドなどを塗った甘いタルティーヌは、フランスの朝食の定番ですが、その塩味版。アペロの時間なら、チーズや野菜、リエットなど、冷蔵庫にあるものをのせるだけ。簡単で、見ても食べても楽しいです。
- ――フランスに行って、自分の価値観は変わったと思いますか。
- どうなんでしょう。フランスでの暮らし、フランス人との結婚は、私にとってすごく大きなことでしたが、芯のところは小さな頃から変わっていなかったような……。
- ――どんなお子さんだったのですか。
- 小さな頃から大事なことは自分で決めていたのです。たとえば、両親や祖父母に連れられてレストランで食事をする時も、食べたいものは子どもでも自分でオーダーしていました。その代わり、すべて責任をもって食べることが鉄の掟だったので、半分の量で頼むなど交渉の術を覚えましたね。高校から寄宿舎に入ったことも、大学では修道院の寮を選んだことも、料理を仕事にしてフランスに行くことも、どれも自分で選び決めた道です。
- ――その後、帰国して結婚なさったのですね。
- はい、彼はフランス人で黒人、バツイチ。小さい子どもも2人いましたので、大反対されましたね(笑)。でも押し通し、4人のファミリーになりました。その後、大病をして死を意識したこと。舌がんでしたので、快復しても好きな仕事ができないかもしれないと絶望して、その後は子を産むことをあきらめたことも。そのどれをとっても、自分の小さな価値観などひっくり返る思いをしてきましたが、逃げず、まっすぐ道を進んできたように思っています。
- ――何かを決断すべき時、自分を突き動かすものは何ですか。
- 心の声を聞き、共感するかしないかで決めています。自分では到底どうにもできないことが世の中にはあると気づいてしまってからは、自分を信じてまっすぐ進むしかないと思っています。どの場面でも誰かがそっと手を差し伸べてくれて、そのご縁に恵まれて今があります。
- ――人生で譲れないことってありますか。
- 自分に嘘偽りがないことでしょうか。
- ――フランスの女性たちとの違いを感じたことはありますか。
- 年齢は関係なく、どの女性も堂々としていますね。パリに住んでいた頃出会った女性たちは、母になったとしても100%母ではないんです。フランスは大人中心の社会。夜は子どもを預けて、パーティーにも出ます。ほとんどが共働きで、男性も育児休暇をとるのが当たり前。ひとり親家庭でも子どもを育てやすい環境ですから、日本とは大きく違いますね。
- ――価値観がぶつかることはありますでしょうか。
- 夫の国でもあるフランスの文化は好きで、尊重もしています。でも、私の中には日本の文化が根づいていて、夫も和食が大好きで、文化への理解もある。家庭の味にしろ、暮らし方にしろ、どちらかではなく、違う価値観があることでむしろ世界が広がるのではないでしょうか。こだわらず、その家庭、その人が快適な方法で生きればいいと思います。
- ――サルボ家ならではの習慣はありますか。
- 朝食は家族で摂り、夕食も必ず4人で食卓を囲みました。一緒に食事をすることで、子どもたちの様子もわかります。元気がないな。好きな料理なのに、何かあったのだろうか。心配ごとや体調なども、自然とわかり合える大事な時間でした。
- ――料理を通じたコミュニケーションでしょうか。
- むずかしい年頃の子どもでも、向き合って食べているとぽつりぽつりと話が出てきます。食事中は誰もがリラックス、油断しているので、家族を理解しやすいのではないでしょうか。思えば私自身も「(家族と)朝食を食べないのなら、学校は行かなくてもよい」という家庭で育ちました(笑)。
- ――栄養だけの問題じゃないんですね。
- そう。食卓を囲むことがいちばん大事ですね。料理の数ではなく、ひとつでも温かい料理があればいいのではないかと思います。親が頑張りすぎるより、笑って一緒に食べるほうがどれだけいいかと思いますね。
- ――サルボさんは「フランスに帰る」とおっしゃいますね。日本で暮らしているのに?
- たしかに。うちの家族は誰もが、フランスに行くときも、日本に戻るときも「〇〇へ帰ります」と言いますね(笑)。私たち家族にとっては、どちらも故郷。住んでいた家もあるし、親しい友人がいる。親戚も。だから「帰る」のが当たり前なのかしら。残念ながら、今は簡単に帰るとは言えなくなってしまいましたが。
- ――フランスでの暮らしで気になることはありますか。
- ヨーロッパは乾燥していますから、肌もカサカサになるのです。とくに最近気になっているのは目元。たるみでてきて、笑いジワも目立ってきた気がしています。昔は、目がもっと大きくて、好きなところだったのですが(笑)。
- ――今もサルボさんのチャームポイントですが。
- いえいえ、自分ではわかります。カラダも全体が、重力に逆らえなくなっている(笑)。重くなってきたまぶたのケア、ようやく始めたんです。デルメッド アイクリームです。
- ――変化を感じていますか?
- 空気が乾燥する冬に、しっかり目元にとどまって、ケアしてくれる。安心感があります。実際、目元のシワが気にならなくなってきました。成分がローズマリーからできているというところもいいですし、柑橘系のほのかな香りもとても好きです。
3種のタルティーヌのレシピ
●サーモン+梨、ディルマヨネーズ
サーモンと和梨は1cm角切り。塩少々、ディルの葉のざく切りをマヨネーズで和え、1cm幅に切ったバゲットにのせる(サーモンと和梨の割合は2:1)
●たらこペースト+ラディッシュ
たらこを薄皮から出してギリシャヨーグルト(無糖)で和える。ラディッシュの薄切りとカイワレ大根と共に、ナッツ入り全粒粉パン(1cmの輪切り)にのせる。
●きゅうり+スモークチーズ+ブルーベリー
きゅうりは薄切りにして塩少々をまぶし、しんなりしたらぎゅっと水分を切り、塩もみきゅうりを作る。スモークチーズを1cmの角切りにして、トーストした角食パンにのせ、エキストラバージンオリーブオイル少々で和えたブルーベリーをちらす。
- ●第3回は2021年1月7日公開。サルボ恭子さんが愛用する道具の話を伺います。
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サルボ恭子(サルボ・きょうこ)料理家
老舗旅館の長女として生まれ、料理家の叔母に師事した後、渡仏。パリの料理学校で料理と菓子を学び、「オテル・ド・クリヨン」のメインダイニングで研鑽を積む。現在は日本と台湾で料理教室を主宰するかたわら、雑誌やTVなどでレシピを公開。洗練された家庭料理にファンが多い。子どもたちは独立し、フランス語教室を主催する夫と両親と2世帯で暮らす。『おもてなしは一点豪華主義でいい』(誠文堂新光社)『フランス共働き家庭の2品献立』(立東舎)など著書多数。
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撮影・小松勇二 ヘア&メイク・レイナ 構成と文・越川典子
サルボ恭子さんデザイン「NOTRE TABLIER(ノートル・タブリエ)」 リネンエプロン&トーション&クロスのセット(2万2000円 税別)を2名様にプレゼント!
「私たちのエプロン」と名づけられた、このエプロンセット。リネン(麻)専門のリネン&デコールとサルボ恭子さんがコラボレーションして実現。グロッシーブラック・アイスグレの2色のエプロン1枚に、トーション(アームタオル)とクロスがセットになっている。「エレガントで美しく、使い込むほどになじんでいくリネンで作りました」(サルボさん)。トーションの色はキッチンでも食卓でも映えるパープル。クロスはグレーとネイビーのピンストライプ。下記オンラインショップにて予約がスタートした。サルボさんによる、3品で完成する簡単おもてなしレシピつきです!(色指定はできません)
https://www.linenanddecor.net