採れたての旬の野菜を束ねた「ベジブーケ®」。飾って食べられる新感覚のギフトとして、お祝いのシーンを彩っています。発案者でありベジブーケ・デザイナーの小山美千代さんは、野菜が身近にあると暮らしが豊かになると話します。
- もらったベジブーケはどんなふうに飾ったらいいですか?
- ひと抱えほどもあるベジブーケは、そのまま椅子に座らせるようにして飾るとおさまりがよく、どこか愛らしさを感じさせてくれます。野菜をすぐに食べない場合はラッピングをほどき冷蔵庫に入れてもらいますが、根や茎が付いている野菜は水に挿すと、長期間見て楽しむことができます。我が家では、秋から冬にかけてケールを花瓶に生けていることが多いですね。少し前、大学生になったばかりの息子がキッチンに飾ってあるケールの葉をちぎって、茎からあふれる汁をなめて「ケールの汁って甘いんだね」と関心していたことがありました。それ以来、野菜料理を作るためにキッチンに立つことが増えた息子。野菜の美しさが食べたい気持ちを呼び起こす。ベジブーケの神髄が息子に伝わっていたのだとうれしくなるできごとでした。
- おいしそうなベジブーケ。思わず食べてしまいたくなります。
- ベジブーケに使う野菜は、採れたてで旬。トマト、レタス、カブ、カリフラワーなどの生野菜は、ぜひそのまま食べてみてください。芽キャベツやニンジン、ケール、リーキなど甘みのある野菜はぐつぐつ煮込んでスープを作るのもいいですね。味付けは塩コショウだけで充分。新鮮な野菜の旨味や甘みを味わうにはシンプルな調理法が一番です。……と言いながら、野菜の可能性をもっと広げたくて、ときどき実験するんです。ピーマンのワタやタネをスープに入れると甘く、トロっとした食感になるとか、キャベツの一種コールラビの根は刻んで炒めるとコリコリしておいしいとか、しなびたダイコンは味が染みこみやすいので漬物や煮物に合うとか、野菜の新たな一面を見つけるのがうれしい。受け取った人に、ベジブーケを最後まで楽しんで欲しいから、手製の「メニューカード」も一緒に届けるようにしています。
- 全国でベジブーケが作られるようになったら楽しいですね。
- 日本全国に「ご当地ベジブーケ」が誕生したら、野菜の可能性はもっと広がりますよね。同じ季節でも、地域によって採れる野菜は全然違いますし、特産野菜もある。旬の採れたて野菜を使うことがベジブーケの条件ですから、その土地ならではの個性的なベジブーケが生まれることでしょう。数年前からベジブーケの教室を始めましたが、うれしいことに全国から生徒が集まっています。6月には、教室の卒業生が北海道でベジブーケの教室を始めるんですよ。ベジブーケの輪がどんどん広がり、いつかは世界中で、私の見たことのない野菜によるベジブーケが生まれたら、こんなに幸せなことはないと思います。
- ベジブーケに向ける情熱の源はどこにありますか。
- 女性へのクリスマスプレゼントにベジブーケを贈った男性が「抱えて歩きたくなる花束だ」と言った時のはにかんだ顔。ベジブーケを習う親子のそっくりな笑い声。好きな野菜を束ねたウエディング・ベジブーケを持つ新婦の満足そうな笑顔。私の原動力は、ベジブーケを手にした人の笑顔にあると思います。ベジブーケの普及のために立ち上げた「美千代デザイン」のロゴマークにはさまざまな野菜が描かれていますが、遠くから見るとにっこり笑っている人の顔に見える。それに気がついた時、ああ、そうか。私は野菜と一緒に笑顔を届けたくてここまでやってきたのかと腑に落ちたんです。手にした人が思わずほほえんでしまう、そんなベジブーケをこれからも作っていきたいと思っています。
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小山美千代(こやま・みちよ)
ベジブーケ・デザイナー。千葉県の農家に生まれる。幼少よりフラワーアレンジメント、華道を学ぶ。インテリア業界、花業界で活動後、都内のブライダルホールで専任ブーケデザイナーとなる。出産を機に夫とともに実家である伊藤苗木に就農し、里山暮らしを始める。2006年、野菜の美しさに目ざめ、ベジブーケの制作を始めると、新聞や雑誌、テレビなどで紹介され、ベジタブルフラワー装飾の第一人者となる。2013年、ベジブーケの普及のため美千代デザイン株式会社を設立。
撮影・青木和義 ヘア&メイク・レイナ 文・高橋顕子