おしゃれな人がこぞって若井ちえみさんに花を注文する――その秘密を知りたくて。お店を、ドイツ語で「香り」を意味する言葉「duft(ドゥフト)」と名づけた若井さんに会いに行ってきました。
- ――店名の「duft」とは、「香り」という意味なのですね。
- そうなんです。「ドゥフト」という、どこか男性的な響きも好きなのですが、香りには人の記憶を呼び覚ましたり、眠っている何かを目覚めさせたり。そんなチカラがあると思っているんです。たった1輪、花を飾るだけで、部屋の空気ががらっと変わる。その佇まいが語りかけてくるものはたくさんあると思います。一人でも多くの人が、それを感じてほしいと思い、もう4年が過ぎました。
- ――5年目に入って、今いちばん感じていることは何でしょう。
- 1年に1回、記念日に花を飾るのもすばらしいことですが、「花が日常にある暮らし」をしてほしいと思っているんです。1輪でもいいから毎週、2週に一度でも、花を飾ってみてほしい。すると、自分が好きな花、気持ちが落ち着く花、元気づけてくれる花、いろいろな花との出合いがあって、部屋に花がないと落ち着かない、もの足りない気持ちになってきます。飾り慣れて、当たり前のように「花と暮らす」ようになると、花を選べなかった人も気軽に選んでいいと気づくと思います。
- ――たしかに、いざ「花を選ぶ」となると身構えてしまいます。コツはありますか?
- そう、どう選んでいいのか、皆さんわからないとおっしゃいます。決まりは何もありません。何より、花に「触れて」「慣れる」ことが一番です。私自身、フラワーショップで働く前は、部屋に花を飾るなんてしたことがありませんでした(笑)。難しく考えず、自分が「これ!」と感じた花を、まずは選んでみてください。ご自分の感覚を信じましょう。
- ――「自分の感覚を信じる」自信はないのですが……。
- ふふ。皆さん、そうおっしゃいます(笑)。毎日食べるご飯、お召しになる洋服を選ぶのと同じで、「花は日常のできごとではない」と思うから選べないだけだと思います。最初のうちは、相性がよくて信頼できるお花屋さんに相談しながら、選ぶことに慣れていくのがいいですね。選ぶ楽しさを教えてくれるはずです。「duft」は、ショップの中央に花を置いていて、花束と同じように一本一本が魅力的に見えるよう、毎日水換えをしながら並び替えています。そのテーブルを回りながら、ギャラリーを見るように花を選ぶことができます。面白い体験だと思いますよ。
- ――若井さんとのやりとりを通して、自分好みを発見することもあるのですね。
- そう思います。たとえば、お客様が「シックなブーケを頼みたい」とおっしゃったとします。その言葉だけで、「私が思うシック」でブーケを作ったとしたらどうでしょう。もしかしたら、お客様のイメージとは正反対、もう二度とブーケは頼まないと思うかもしれません。シックという言葉が含むイメージは人によって様々で、自分が想像している以上の世界が広がっています。だから、質問する、話すんです。そのコミュニケーションの中で、お客様自身も、自分の考えやイメージ、好みなどがクリアになっていく。私自身も、新たに発見させてもらうこともあります。
- ――若井さんご自身は、花のお仕事を通して変わったことはありますか。
- 食私自身、「duft」らしさって何だろう、と常に考えています。「duft」=私でもありますから、自分自身を模索することは仕事に直結しています。だからといって、私の価値観を押しつけるわけではなく、「duft」らしさや思いを抱えながら、お客様の要望やシーンに合わせてご用意していきます。お客様そっちのけで、自分が作りたいものを作ることもできますが、どんな人が受け取るのか、どの場所に置かれるのか、「条件」があってこそブーケ作りは面白い。「お題」をいただき、それに応えるようにブーケを作る。受け取ったお客様が、驚き、喜ぶ。それがまた私の喜びになる。花を通して、心を通い合わせることが醍醐味かもしれません。
- ――好きな花はありますか? また、花の好きなところを教えてください。
- よく聞かれる質問です(笑)。好きな花ってないんです。どの花も好き。どの花も美しい。同じ品種でもよく見ると、一つひとつが違うからかもしれませんね。一本として全く同じものは存在しません。人間と同じです。その花の佇まい、発している香り、花びらの質感から漂うイメージ、触れたときの固さや柔らかさ。どれも違っていて面白い。
- ――花の質感って、考えたことがありませんでした。
- 花びらが厚ぼったく、ビロードのような質感もあれば、触れるとすぐに散ってしまいそうな儚い花びらもある。よ~く見ると、とげとげがあったり、微妙な色の筋が入っていたり。見ていると飽きません。人の肌も、その質感が語りかけてくるものがあると思います。しっとりした肌は、上質さを伝えるでしょうし、カサカサした肌は、少し悲し気。実は、私は超乾燥肌なので、大のクリーム好きです。今、私のしっとり肌を保ってくれているのは、このクリーム№1。ふんわりしているのに、しっかり保湿してくれています。
●第3回は、若井ちえみさんに、花の選び方・活け方を教えていただきます。お楽しみに!
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若井ちえみ(わかい・ちえみ)
フラワーデザイナー、「duft」オーナー
1986年北海道生まれ。フラワーショップ勤務を経て、2016年5月、東京世田谷区、松陰人社前にフラワーショップ「duft(ドゥフト)」をオープン。一人ひとりのお客様と向き合い、丁寧にブーケやアレンジメント作りが評価されている。店舗やイベントのディスプレイ、撮影のスタイリングなどでも活躍。店舗は不定休。躍。店舗は不定休。
撮影・青木和義 構成と文・越川典子