会いたかった人
【ずっと会いたかった人】ベジブーケ・デザイナーの小山美千代さん(4)
「ベジブーケ®」とは、採れたての野菜やハーブ、果物を花束のように束ねたブーケのこと。野菜の美を見つめ続けているベジブーケ発案者の小山美千代さんに、「美しさ」について聞きました。
- 野菜の美と女性の美に共通点はありますか。
- 美しい野菜と美しい人の共通点は「つや」だと思います。弾力があり、しなやかで、水分をたっぷり含んだ野菜を作るために欠かせないのは、土壌作りです。私の農園では、ヨーグルトドリンクや納豆などの発酵食品をブレンドした堆肥を手作りし、腐葉土も3年以上寝かせてからようやく種をまきます。いい土壌はふっくらと種を包み込むような柔らかさがあり手を入れるとほかほかと暖かい。美しい女性は、素肌に力がありますよね。これは、自分の肌に合った化粧品で、毎日丁寧にスキンケアをしている証。土壌作りと同じように手間暇をかけると、肌もそれに応えてくれるんだと思います。
- 自分と向き合うのはどんなときですか。
- 畑仕事は立ったり、しゃがんだりの繰り返し。ベジブーケは集中力と野菜をダイナミックに束ねる腕力が肝心。体力がなければとても続けられない仕事です。仕事が終わり、家族との夕飯も終えて、「もうへとへと…」と思いながらも、ここからが私のためだけの時間。入浴後には、しっかり自分の肌と向き合うようにしています。といっても、スキンケアに使用する化粧品は、化粧水と乳液だけ。もともとあまり肌が強くないこともあり、あれもこれも肌につけるのは控えるようにしているんです。土埃や紫外線など、昼間に刺激を受けた肌を労わるように、水分と油分をたっぷり与えてあげると、水を挿した後の野菜のようにシャキッと生まれ変わるような気がします。
- 野菜の美しさを見つける方法を教えてください。
- 市場には形のそろった野菜が同じ向きでキチンと並べられていますが、ベジブーケを作るときは、固定概念にとらわれず、私が「美しい」と思う感覚を信じます。たとえば、ねじれたニンジンや、ふたまたのナスなど個性的な形の野菜をあえて主役に立ててユニークでたくましいベジブーケを作る。スイスチャードは、根元の鮮やかな赤色を見て欲しいからベジブーケの中心に「逆さ」に置いて束ねる。野菜に美を見出し、その美を最大限に活かすためには、野菜をよく知ること。野菜の名前を覚えることから始まり、観察し、触れ、匂いを嗅ぎ、味わう。自分のチャームポイントや魅せ方をよく知っている人は美しい。それと同じことなのではないかと思うんです。
- 小山さんが考える理想の肌を教えてください。
- 毎日畑に立つ私ですが、実は、長時間日に当たると炎症やかゆみが起こる敏感肌。紫外線対策は欠かせないのに、つけると涙が止まらなくなる日焼け止めがあるなど、肌に合った日焼け止めを見つけるのにずいぶん苦労しました。つけた瞬間からつけている間中、心地よく過ごせる日焼け止めに出会ってからは、顔だけでなく、手、腕にもしっかりつけています。最近は、ベジブーケの教室で手元を見られることも多いから、意識してケアを始めました。理想の肌ですか? そうですね。できれば、採れたて野菜のようなつややかさを持った肌でありたい……。ですが、長年肌トラブルに悩んできたこともあって、実はあんまり多くは求めていないんです。肌の痛みやかゆみを気にすることなく思いっきり笑えればそれがいちばん。笑うってことは、元気ってことですから。人に笑顔とサプライズを届ける仕事ですので、何より私自身が元気でなくてはと思っています。
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小山美千代(こやま・みちよ)
ベジブーケ・デザイナー。千葉県の農家に生まれる。幼少よりフラワーアレンジメント、華道を学ぶ。インテリア業界、花業界で活動後、都内のブライダルホールで専任ブーケデザイナーとなる。出産を機に夫とともに実家である伊藤苗木に就農し、里山暮らしを始める。2006年、野菜の美しさに目ざめ、ベジブーケの制作を始めると、新聞や雑誌、テレビなどで紹介され、ベジタブルフラワー装飾の第一人者となる。2013年、ベジブーケの普及のため美千代デザイン株式会社を設立。
撮影・青木和義 ヘア&メイク・レイナ 文・高橋顕子