16,000㎡の敷地に500種の薬草やハーブ、果実が。千葉県大多喜町にある「薬草園蒸留所」に移り住んで4年めの山本祐布子さん。イラストレーターとして日々絵を描きながら、蒸留家の夫・江口宏志さんとともにさまざまなプロダクツを作っています。「植物との暮らしは楽しくて、奥深い」と話す山本さんの暮らしぶり、見せていただきました。
※次回から、薬草やハーブの使い方、あらたな作品づくり、そして山本さんのこれからなど、全4回にわたってお話を伺います。
- ーーmitosaya薬草園蒸留所の名前は、<実(み)と莢(さや)>という意味だそうですね。
- そうなんです。植物の果実や種、花、葉、根、ときには莢までも活用してボタニカル・ブランデーを作っています。だから、実と莢。それに、私たちの娘2人の名前でもあるんです。美糸(みと)と紗也(さや)です。
- ーーご家庭と、イラストや蒸留所の仕事と、どんな毎日ですか。
- 毎朝4;45に起きます。まず、リビングの窓を開けて、深呼吸。そして、友人の作家・細川護光さんの器でゆっくりと白湯を飲むのが日課です。この時間は、私ひとりだけの時間。そのあとは朝食を作り、子どもたちを学校に送り出し、午前中はイラストの仕事、昼食作り、午後はmitosayaの仕事をして、子どもが帰宅したら夕食の準備。9時には燃え尽きて眠る……まるで一輪車で走っているような毎日です。
- ーー窓から見える景色もすばらしいです。自然の一部のような暮らしですね。
- 遠くに山が見えるのですが、その向こうから陽が昇り、空が明るくなる――毎朝こんな1日の始まりを迎えられるのは喜びです。敷地内には、ハーブサークルやエディブルファーム、薬草園、果樹園、ミツバチのためのスペースもあります。ただ、私がすることは、どこにいても変わらないんです。東京にいたときも、夫が蒸留を学ぶために(2015年に)1年間、家族でドイツに渡ったときも、ここに来てからも。するべきことは同じです。だからこそ、朝のちょっとした習慣は自分が自分であるために必要なのかもしれませんね。
- ーーmitosayaでは、どんなプロダクツを作っているのでしょう。
- 基本は、ボタニカル・ブランデー。植物で作る蒸留酒ですが、ヨーロッパでは「オー・ド・ヴィー」、生命の水、人生の水と呼ばれているんですよ。2018年6月に、蒸留所開きのツアーを企画してから、毎月オープンデーを設けて、たくさんの人に来てもらっています。去年3月に、ようやくファーストバッチ(初蒸留)ができて、お披露目会をしました。
- ーーみかんやレモン、梨や柿からもブランデーができるんですね。
- 果実だけじゃなくて、花びらも試すなど、さまざまです。日本ならではのオー・ド・ヴィーを作ろうと、生産者の方はじめ、どんどんつながりができてきました。毎月、新製品をリリースするのですが、うれしいことにすぐ売れてしまいます。まだ、1か月に2,3種類しかできないので、そのくり返しで。季節ごとの味を楽しみにしてくださる方が増えてきました。
- ーー祐布子さんは、どんなプロダクツを担当されているのですか。
- オリジナルティーの生産担当です。緑茶かアールグレイをベースにして、ハーブや花をブレンドしています。どれもうちの庭園でとれたもの。この黄色いのはターメリック。ピンクの花は、マヌカ。ギョリュウバイですね。マヌカ・ハニーのマヌカです。こっちは、シナモンリーフや梅の花、お茶の花などをブレンドしたものです。
- ーーお茶作りの面白さって、どんなところですか。
- 私は、花茶が好きなんですね。花って、苦いんです。その苦みを面白いととらえてくださると、すごくうれしくて。効果効能とか、飲む目的とかは、あえて言いません。それより絵具みたいに、何色と何色を合わせるときれい……という感覚でブレンドしています。ガラスの茶器を通して見える世界が美しいことは、私にとってはとても大事で。美しさと味のバランスをとるための試行錯誤が楽しくてしかたないですね。
- ーー植物について、知識はどんどん増えていますね。
- 奥が深いんです、植物って。お茶にしようと思って試した花が、ものすごく苦くて諦めたり、その成分は何だろうと調べたり。どんなふうにカラダに作用するかも知りたくなります。以前は、何となく見ていたものも、よく観察するようになりました。実は、基礎化粧品も、機能で選ぶということを、この製品で気づいたんです。
- ーー機能で選ぶとは、どういう意味ですか。
- それまでは、肌につけるものも、何となく選んでいた。雰囲気とか、イメージとか。でも、ものをプロダクトするという立場になってみると、なぜこれを使うのか、どう配合するのか、理由がわかるものを選んだほうがいいのではないかと思ったんです。ちゃんと効果があることを意識する年齢になったということかもしれません(笑)。
●第2回は、薬草やハーブを日々の食卓にどう活かしているか、お聞きます。お楽しみに!
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山本祐布子(やまもと・ゆうこ)
イラストレーター
東京生まれ。京都精華大学テキスタル学科卒。雑誌、広告、プロダクトデザインなどを手がける。現在は、千葉県大多喜町にあるmitosaya薬草園蒸留所の取締役として運営に関わると同時に、オリジナルブレンドティーを考案。ティーだけでなく、シロップなど新製品の試作、毎月行われるオープンデーの料理などを担当している。二児の母でもあり、犬や猫、鶏と暮らす多忙な毎日を過ごす。
撮影・青木和義 ヘア&メイク・布施綾子 構成と文・越川典子