日本の熟練の技術がなければ「chisaki」の帽子はできないという苣木(ちさき)紀子さん。帽子作りのすべての工程に、愛と敬意をのせている苣木さんの思いを聞いてきました。
- 「chisaki」の帽子は、ディテールまで美しいです。
- 生地を作る人、縫う人、パーツを作る人、染める人……帽子って、分業なんです。一つひとつの工程に、日本の熟練の技術者がいて初めて成立する世界。感動するくらい美しい。だから、一緒に作っていきたいんです。海外の素材も使っています。アフリカのリサイクルビーズや、フィリピンのココヤシの葉など。でもそれは「安い」から使うのではなく、倫理的背景の中で作られていること、サステナブルなものであることを確認しながらすすめています。関わる人すべてが笑顔になる、幸せでいることが「chisaki」の目標でもありますから。
- 折りたためる帽子は、日本のもの、和紙でできていますね。
- はい。日本ならではの美しさと機能性がある「折りたためる」帽子は、海外でも人気です。和紙で作られているから柔軟性があって、次第に頭になじんでいくんです。「10年かぶっています」とおっしゃるお客さまもいらっしゃるんですよ。何年たってもお直しを受けているのは、大事にかぶってほしいからですが、大事にできるという状況を作ってこそ、技術も維持していけると思っているんです。職人さんの技術がなければ、私のデザインは生まれなかったし、私と職人さんとの信頼関係があるからこそできた! というものが生まれたらうれしいですね。
- 色も、見たことのない微妙な色合い。とても独特です。
- とくに色が鮮やかなのが、「バオ」という帽子です。フィリピンのココヤシで作っているのですが、手もみでやわらかくして作ります。茜、藍……沖縄の植物染色家、KITTAさんに染めてもらっています。日本の植物の色、独特で、海外でも「なぜこの色が出るのか」と聞かれます。KITTAさんとは、5年前に私が彼女のワークショップに参加したことから生まれたご縁で、今一緒に仕事ができるのは、とてもありがたく、幸せなことなんです。
- ものづくりは、進化するところと、変わらないところとがありますね。
- 定番にしている帽子も、つばの広さやトップの高さなど毎年少しずつ改良しています。思うのですが、帽子と化粧品って似ていますね。身につけるものと、肌にのせるもの。女性を美しく見せるものと、美しくするもの。作ったものを手渡す相手を想像してもの作りするのも同じですよね。このデルメッド ナイトリッチも、変わらない軸は保ちつつ、新しい成分を加えて使い心地もよくしたと聞いています。自分のそばに「よいもの」を置いて生きること自体、幸せな未来につながっていくのだろうと、素直に感じています。
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苣木紀子(ちさき・のりこ)
帽子デザイナー
大阪府生まれ、佐賀県育ち。大学卒業後、メーカー、ファッションデザイナーを経て、帽子の世界へ。企業の帽子デザイナーとして、国内のみならずNY、パリ、ロンドンでも高い評価を得る。2016年に「(株)MASION ENKU」を立ち上げ、新たなブランド「chisaki」をスタートさせる。毎年、パリの国際展示会「Premiere Classe」、NYの「d&a」に出展。現在、東京と北海道・富良野にアトリエをもつ。
Instagram @chisaki_noriko
Facebook @noriko.chisaki
http://www.chisaki.co.jp/
撮影・青木和義 ヘア&メイク・レイナ 構成と文・越川典子