会いたかった人
【ずっと会いたかった人】大人気「オオカミちゃん」の生みの親、黒田有里さん(3)
白い衣装に身を包んだオオカミちゃんたち。ちょっとアクのある表情も、おしゃれな洋服も、ファンの間では有名です。どんなふうに作っているのか、制作現場におじゃましました。
- オオカミちゃんみたいに、舌がべろんと出ているぬいぐるみは初めて見ました。
- 20代からぬいぐるみを作っていましたが、当時は、ぬいぐるみって「笑っている子」とか「大丈夫だよと言っている子」のような、いわゆる安心感を得られるようなものでないとダメだと思っていたんです。でも、どうにも自分には作れない気がして。だんだん、そうじゃなくてもいいんじゃないか。むしろこちらから「大丈夫?」って声をかけたくなるような、しょんぼりしていたり、少し意地悪な顔をしている子でもいいんじゃないかと思うようになったんです。そうしたら、すごく楽しくなってきて。それからは、ぬいぐるみを見てくださる方たちの反応も明らかに変わって、手に取ってくださる方がどんどん増えてきたんですね。不思議ですよね。オオカミも、私の中では、いつも舌がべろんと出ていて、口を開けたら歯がいっぱいで、常によだれが垂れちゃっているような、ちょっと怖い感じなのに、なぜかマヌケ。それをそのまま、自分が楽しいと思えることを表現できるようになったからこそ、生まれたんだと思います。
- よく見ると、舌の長さも違うし、目の表情も。手をかけているのがわかります。
- いつでしたか、オオカミちゃんの「かわいい子も作って」と要望をいただいたことがありました。ん? かわいいって何? って、すごく考えました。結局、わからなかった。私にとってこのオオカミちゃんが最高にかわいい! という結論に(笑)。舌は、赤でもピンクでもオオカミちゃんの白い毛にはしっくりこなくて、草木染をしてみたら、ちゃんと白になじむ肉の色になりました。長さも表情に合わせて変えます。目は磁器です。自分で成形しています。それを顔に縫いとめ、位置を決めてから黒目を描き入れます。全部、手仕事です。当然皆違うので、自身をもって送り出すためにも、私が思うその子その子の「最高にかわいい!」を目指しています。
- おしゃれな衣装が大好きという人がたくさんいますね。どんな発想で作るのですか?
- アンティークの布やボタンが好きで、ノミの市などで集めていました。それをお洋服にしています。でも、アンティーク素材ばかりだと、不思議とやぼったくなるので、今の素材を混ぜて、「私が着たいな」と思うものを作っています。古着もよく使います。昔、母親が作ってくれてよく着ていた吊りスカートや、制服にあるようなプリーツスカートなどが大好きなので、定番のように作っていますね。噛み癖がある子もいるだろうから口輪を作ったり、謎めいた仮面をかぶせたり。この布は宇宙っぽいなとか、お洋服のデザインを考えるのはすごく楽しいです。アランニットで包んだピーナッツはかわいいと思って口の先のほうだけを出したら、人気者になっています(笑)。
- ひと針ひと針、全部、手作業なのですね。
- 作り始めは、ひたすら単純作業が続きますね(笑)。布を切って、縫って。それから頭や手や足に棉を詰め、連結させたらもう立つんです。その状態になったら、一気にテンションが上がりますね。鼻を刺しゅうして、歯をカットして、舌を挟み込んだらもう「きゃー!!」ってなります。耳をつけ、目をつけ、目を描いて、最後に爪を刺しゅうする。その間、どんどん気持ちが盛り上がってきて、「あー、やっとまた会えたねー!!」って。この高揚感のために私はオオカミちゃんを作っているのだと感じます。1日が終わっていちばん疲れるのは、目ですね。目の下のクマも悩みでしたが、デルメッド アイクリームを使い始めて、目もとの落ち込みがなくなり、ハリが出てきたんです。
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黒田有里(くろだ・ゆり)
アーティスト
1971年北海道生まれ。20代からぬいぐるみ作家としてスタート、2008年「黒ねこ事務所」を設立。ぬいぐるみやドローイングなどの作品を発表する。2017年から本格的に「白いオオカミ」の制作に入り、毎年100体ほどインスタレーションとして発表を続ける。個展会場では毎回、「白いオオカミ」の圧倒的な存在感が注目を集め、入手困難なほど人気に。2020年9月、九州・福岡の「krank marchello」にて大きな個展を予定している。
Instagram @necoquero
撮影・黒川ひろみ ヘア&メイク・レイナ 構成と文・越川典子