ひと目見たら決して忘れられない、真っ白なぬいぐるみ「オオカミちゃん」。誕生してたった2年で、アートシーンやコレクターの間でじわじわと話題になっているのです。生みの親の黒田有里さんは、空間でぬいぐるみの世界を表現するアーティスト。一体どんな女性なのか、知りたくなりました。
- 「なかなか手に入らない」と話題のオオカミちゃんって、一体何者なのでしょう?
- 何者か、ですか? ん~、何者でしょう(笑)。作っている私も知りたいです。その答えを知りたくて、作っているのかもしれませんね。「ぬいぐるみでしょ」と言われたら、何となく違う気がしますし、愛玩の対象としてだけではなく、もっと独立した強い「何か」であるような気もします。個展会場では、50体、100体のオオカミちゃんが隊列を組んで並ぶのですが、皆さんが大勢のオオカミちゃんの中から「自分にとっての1体」を選ぶ様子を見ていると、もうその時からお互いのやりとり、つまり「関係性」が始まっていると感じます。それを含めての「作品」なのではないかと思っています。
- 自分の脚で「立つ」ぬいぐるみって、とてもめずらしいですね。
- どうしても立たせたかったんです。それまでの展示では、ぬいぐるみを宙に浮かせ、目線の高さで見せることが多かったのですが、ちょうど2016年に離婚が成立しまして……本当に好きなものだけ作っていこう、好きなことだけしていこう、と考えていた時期でもあって。2017年9月、北海道・札幌のギャラリー「retara」で初めて50体のオオカミちゃんが床に立ったとき、「ついにぬいぐるみが私と同じ地面に立った」と。なので、タイトルも「stand」。今思えば、自分の「自立」とどこか重ねたかったのかもしれません。その後、東京・南青山の「DEE’S HALL」での個展で、119体のオオカミちゃんたちが何やら目的をもった隊列になったのを見たとき、「この子たちは私が作ったものではあるけれど、もう私からは離れた存在なのだ」と感じたことを覚えています。
- なぜ「白い」オオカミなのですか?
- よく「なぜ白なのか」聞かれるのですが、私にはイメージがあっただけ。雪原に立つたくさんの白いオオカミ……それ以上に意味はなかったのだけれど、調べてみると、白いオオカミが神様の使いとして祀られている神社があったり、また、アイヌではその存在自体が神様として大切にされていたり……。白には神聖な印象があるように思います。それもとっても素敵ですが、私の作るオオカミには、私の手を離れるまでは「空っぽ」であってほしいと思っています。
- オオカミちゃんが「空っぽ」って、どういう意味なのでしょう?
- 作るとき私は「自分をのせない」努力をしています。受け取る人がまっさらな新しい関係性をオオカミちゃん自身と築いてほしいと思うからです。私が悩んでいたり、苦しんでいたりすると、その要素が入り込んでしまう気がして……。私にとって、オオカミちゃんを作ること自体が救いであり、喜びです。そのことを純粋に感じていたい。だからこそ、健全で、健やかな状態で制作に向き合いたい。毎日ヨガをして、きちんと食事や睡眠をとり、カラダを清潔にして、肌も整え、機嫌よく暮らす――。すべてはオオカミちゃんのため(笑)。とくに、ていねいにスキンケアをして、肌がしっとり、ハリのある状態になっていると、モチベーションが上がります。よい化粧品は、私にとって「がんばろうの素」なのかもしれません。
関連記事
黒田有里(くろだ・ゆり)
アーティスト
1971年北海道生まれ。20代からぬいぐるみ作家としてスタート、2008年「黒ねこ事務所」を設立。ぬいぐるみやドローイングなどの作品を発表する。2017年から本格的に「白いオオカミ」の制作に入り、毎年100体ほどインスタレーションとして発表を続ける。個展会場では毎回、「白いオオカミ」の圧倒的な存在感が注目を集め、入手困難なほど人気に。2020年9月、九州・福岡の「krank marchello」にて大きな個展を予定している。
Instagram @necoquero
撮影・黒川ひろみ ヘア&メイク・レイナ 構成と文・越川典子