会いたかった人
【ずっと会いたかった人】注目の茶会「chanowa」主宰の出野尚子さん(4)
もっともっと中国茶を学びたい。だから、年に2,3回は中国に渡るという「chanowa」の出野尚子さん。この秋は「茉莉花茶(ジャスミン茶)」の故郷、福州へ。香り高いお茶の魅力を教えてくれます。
- 中国茶で、忘れられないお茶はありますか。
- 世界でいちばん好きなお茶は、プーアール茶です。チャノキの原産地でもある雲南省。そこでできるお茶を俗称でプーアール茶と呼びます。このお茶には、なぜかわからないけれど、他にはないおいしさがあって。森の中には、200年とか300年とか、中には1000年もの古樹が生えていて、春に一度、山岳少数民族の人が茶葉を摘みに行きます。人の手で炒り、手で揉み、ゴザに干し、熟成発酵させる。こうしてできるお茶は、何とも言えない渋みと旨味がある。他の植物が到達できないほど深く根っこが達しているので、ミネラルがたっぷり。香りは、花のような、落ち葉のような、草原のような、焚火のような。淹れたお茶の香りは時間とともに変化します。最後には、薬のような味わいになっていくのも好きです。
- このお茶が、福州のジャスミン茶なのですね。
- 香りがすばらしいでしょう? ジャスミン茶は「茉莉花茶(モーリーフアチャー)」と言うんです。福建省・福州で作るところを見せてもらいました。春に摘んだ茶葉を乾燥させ、夏に摘んだジャスミンのつぼみに混ぜて香りを移すんです。香りをつけては、ふるいにかけて花を除き、乾燥させて、またジャスミンを混ぜる。それを3回から12回くらいくり返すんです。気が遠くなるほど、人の手が入っている。まさに「天地人」、どれを欠いてもできないのがお茶。だから、たったの1分だって無意識にお茶を淹れたくない。深い気持ちで淹れたい、そう思う理由がここにあるんです。
- これから、どんなお茶会を開きたいと思いますか。
- 音楽を聴くお茶会、朝から夜までのお茶会、茶畑でのお茶会、赤ちゃんと一緒のお茶会……開きたいと思うお茶会はたくさん。茶器をまるまる一式包んで、私はどこまでも行きます。面白いのは、訪れる場所で、お茶会も変わるということ。陶芸家の個展会場での茶会なら、作品が映えるように。先日の「Teaforpeace」というイベントでは、モンゴルのゲルの中でお茶会をしました。まったく違う考えの人と一緒に、同じ時間と空間を作るのがお茶会ですから、思いもかけないことが起こる。今、それが面白くてたまりません。
- まさに一期一会、そのときだけの出会い。お茶会に参加する方はお名前だけで、年齢も職業も住所もお聞きしません。けれど、一度だけ後悔していることがあります。2016年の熊本大地震です。皆さんどうなさっているかと心配するばかりで、連絡をとりたくても方法がない、せめで電話番号だけでも聞いておけばよかったと……。あれからですね、以前よりずっと「出会う」ことの意味が深くなったのは。お茶会の一回一回が、私にとってどんどん大切になっているんです。
- 茶畑によくいらっしゃいますが、なぜか日焼けをしていません。
- 真っ黒で、でも美しくて……プーアール茶を学びに行った先で出会った、愛尼(アイニ)族の女性の手を、今も忘れられません。シワが深く刻まれた「働く手」でした。茶畑は高地に作ることが多いんです。とくに、中国では空が近くて、紫外線をたっぷり浴びてしまうんですね。私も行くたびに日焼けして真っ黒に。冬の間に色が褪めて、褪めたかと思ったらまた日焼けする、のくり返しでした。それが、デルメッド プレミアム UVベイスをつけるようになってから、なぜか日焼けしないまま2年を過ごしています。首筋や耳のうしろまでしっかりつけていますが、これからは、私の「働く手」にもつけようかと思っています。
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出野尚子(いでの・なおこ)
「chanowa」主宰
1974年鹿児島県生まれ。2002年、熊本の中国茶店「玉蘭」に就職、中国茶を学ぶ。2005年に独立、「chanowa」主宰。九州の茶農家をめぐり、また中国へも何度も足を運び、その土地ならではの茶葉の味わい、楽しみ方を、茶会や教室を通して紹介している。現在、熊本市の史跡「泰勝寺跡」を茶会の拠点としつつ、鹿児島、宮崎、大分など九州内はもちろん、京都や東京でも出張茶会を開催、おいしいお茶で客をもてなす。どの茶会もなかなか予約がとれないほど人気を博している。
撮影・青木和義 ヘア&メイク・レイナ 構成と文・越川典子