熊本で知った「釜炒り茶」に惹かれ、市内の「泰勝寺跡」をベースにお茶会を催す出野尚子さん。料理家、菓子作家、お茶の栽培農家……地元のスペシャリストたちとコラボレーションを重ね、独自の世界を築いています。
- 熊本の「taishoji」でのお茶会が、とても評判ですね。
- ありがとうございます。熊本市黒髪にある「泰勝寺跡」は、もとは熊本藩主・細川家の菩提寺だったんですね。細川家に嫁がれた料理家の細川亜衣さんとご主人で陶芸家の細川護光さんが、この地をもっと知ってもらおうと立ち上げたのが「taishoji」というプロジェクトなんです。料理教室や個展、マーケットも開かれ、全国から、世界から訪れる人も増えてきました。私がこのコミュニティでお茶会をできるのは、亜衣さんはじめ、プロフェッショナルな友人たちとのつながりがあってこそ。亜衣さんの料理に私のお茶会もありました。他にも、様々な方とご一緒させていただいています。一度、遊びにいらしてください(笑)。
- ずいぶん肌寒くなってきました。今でしたらどんなお茶を選びますか。
- 気温が下がり始めると、不思議と「茶色のお茶」がおいしく感じられるようになるんです。発酵の力がカラダを温めてくれるのかもしれませんね。プーアール茶や紅茶、ほうじ茶、鉄観音……お茶会の趣向によって、どのお茶を組み合わせようか。どんなお菓子にしようか。考えるのが楽しくて。ある寒い日のお茶会にお願いしたのは、「marcadette」主宰のお菓子作家・渡辺薫子さん。作ってくれたのは「湯圓(タンユェン)」でした。この庭園に咲く金木犀の花のシロップをお湯で割って、落花生の餡を包んだ白玉団子。ひと口召しあがったお客様の顔が、ふわっと花開くような笑顔になったことが忘れられません。
- 熊本のいいところ、好きなところを教えてください。
- 熊本に住んで25年。もう、人生ほぼ熊本、ですね。熊本といえば「火の国」と言われますが、実は「水の国」でもあるんです。水源がたくさんあって、和水(なごみ)町とか天水町とか、水にちなんだ美しい地名も。お誕生日に水汲みに行って、そのお水を飲む風習も残っているようです。私も友人の誕生日を祝うため、早朝の「水汲み茶会」を開いたことがあります。風がさわさわと樹木の葉を揺らし、木漏れ日の中を水が流れる音や鳥のさえずりが聞こえ、そしてお茶の香りと味わい。熊本には、昔ながらのレンガ造りの炒り機や、木製の揉捻機を使って、有機の茶葉で「釜炒り茶」を作っているお茶農家さんがあります。古い山茶も自生しています。私ができることは、このお茶を、もっともっとおいしく淹れること。そして、たくさんの人に味わってもらうことなんです。
- 出野さんが惹かれる女性像ってありますか?
- 難しいなぁ。……ひと言でいえば「面白い人」かな。笑えるということではなくて、「これ」と思ったことに突き進む人って、すごく面白いって思います。髪を振り乱して、一心不乱に打ち込んでいる姿は、目が離せない。私もそれくらいお茶にのめり込む人間でありたいと思っています。でも……茶器などを整えているときに、ふっと思うんです。「整える」ことの美しさもあるなと。実際、年々、髪がパサついてきていたのですが、デルメッド ヘアシャンプー、ヘアトリートメントに替えたら、とっても調子がいいんです。使い続けていけば、振り乱した髪でも美しく見えるかなと思います(笑)。
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出野尚子(いでの・なおこ)
「chanowa」主宰
1974年鹿児島県生まれ。2002年、熊本の中国茶店「玉蘭」に就職、中国茶を学ぶ。2005年に独立、「chanowa」主宰。九州の茶農家をめぐり、また中国へも何度も足を運び、その土地ならではの茶葉の味わい、楽しみ方を、茶会や教室を通して紹介している。現在、熊本市の史跡「泰勝寺跡」を茶会の拠点としつつ、鹿児島、宮崎、大分など九州内はもちろん、京都や東京でも出張茶会を開催、おいしいお茶で客をもてなす。どの茶会もなかなか予約がとれないほど人気を博している。
撮影・前田和尚、青木和義 ヘア&メイク・レイナ 構成と文・越川典子