dermed style もっと笑顔の日

【モデル・優恵の笑顔日記『明日も笑う所存です。』】Vol.31「想い出の鍵は増えてゆくのです。」

硬過ぎず、緩過ぎず。

ある仕事の為に着て行く洋服を数週間考えていました。ちょっときちんとして行きたいけれど硬過ぎてもどうでしょう。派手になってもよろしくないし。お天気のことも考えると、たくさんの人にお会いするのに暑いのは嫌ですし、雨は降るなら帰りにして欲しい。さて何を着て行こうとあれこれ考えていたところに目の前に現れたsuzuki takayukiの白い麻のブラウスはさりげなく、これはわたしにとって満点でした。ちゃんと素敵で、硬過ぎず緩過ぎず。一番上に付けられた小さなシャンクボタンがとても好みです。20年程愛用しているバカラのシックなブラッククリスタルのイヤリングを合わせました。

バックに掛けたキルティングは薄いインド綿の生地が二枚重ねになっています。

セルロイドの筆箱の音と真鍮のドアノブ。

10代の頃に使っていた筆箱は筆記用具の本数が多かったので幅のあるべっ甲模様のセルロイドのものでした。走ると鞄の中でカタカタと筆箱の音がします。大人になって、2、3本入れば充分と思い購入した赤いセルロイドの筆箱は夏の金魚のようで可愛くて、鞄の中で蓋が開いてしまわないようにピンクと水色の太いゴムを巻いていました。わたしの娘時代にはセルロイドの小間物を扱うお店が渋谷や原宿にいくつかありました。今は目にする機会の少なくなったセルロイドですが、眼鏡とアコーディオンとギターのピックには変わらずに使われているようです。40歳を過ぎた頃に文具店で見付けた真鍮の筆箱は、懐かしい祖母の家を思い出すので気に入っています。

真鍮は憧れの素材のひとつです。祖母の家の中の全てのドアノブが真鍮でした。

黒い鉄の鍋の日々。

20代の終わりに3年半ほど一人暮らしをしていました。一人なのだから、とわたしは小振りの道具を揃え始めました。台所用品を扱うお店で目に入るのは一人分を美味しく作れそうな小鍋やフライパンです。丁度その頃、鉄鍋から出る鉄分が一番身体に吸収され易いという情報も聞いていましたので、黒い鉄の鍋で日々の食事の支度をしていました。今は鍋もフライパンも母にも扱い易い物を日常使いにしています。一緒に暮らす人に合わせて道具も出番が有ったり無かったり。

ひとつひとつ揃えた小さな鉄の鍋。一番小さなフライパンで目玉焼きを作るのが好きです。

ふたりの姉と雨の京都。

わたしには姉と慕うふたりの女性がいます。上の姉は東京に、下の姉はカナダのトロントで暮らしています。トロントの姉とはオンラインでおしゃべりをします。今は約10,400km離れていても顔を見て声を聞くことができるので、幸せなことです。20年近く前になりますが、彼女が愛媛のご実家に休暇で滞在中に、愛媛と東京の間を取って京都で姉妹揃って会おうと計画を立てました。重たい雨が降る京都の街を歩いてイノダコーヒ本店に入りましたが、肌寒く耳の奥でずっと雨が降っているような感じがしていたことを思い出します。わたしは骨董を扱うお店で旅の記念に蓋付きの茶碗を1客だけ買い求めました。

高価なものではありませんが、姉と慕う人たちと歩いた雨の京都のことを思い出す鍵になっています。

文と写真・優恵

優恵

ゆえ

モデル・俳優。ティーン誌『mc Sister』の専属として活動を始め、カバーモデルをつとめる。『non-no』『SO-EN』など多くの女性誌、TVコマーシャル、ファッションショーなどで活躍。20代後半からは映画、ドラマに出演し、活動の場を広げる。近年の出演作品に、美玖空トライアル公演「女は女で、女である」(2021・美玖空 脚本/演出)、『秘密のフレグランス』(2021・富田大智 監督)、『Motherhood』(2019・萬野達郎 監督)、『しあわせだったにゃよ』(2019・利重剛 監督)、『午後の悪魔』(2017・中村真夕 監督)、『アイズ』(2015・福田陽平 監督)、『PASSION』(2008・濱口竜介 監督)、インスタシネマ『女図鑑』(2019・美玖空 脚本)などがある。ドラマとファッションとおいしいものと花をこよなく愛する。フォトエッセイ『昼寝の前に』を連載中。https://6ropeway6.com/

撮影・青木和義