ドロップの色は大人の色。
母は幼いわたしに茶色とかグレーとか黒とか紺色だとか緑だとか、シックな色を好んで着せました。時折、差し色に赤と紺色の縞々のTシャツがあったり、珍しく目立つアイテムに黄色の胸当ての付いた吊りスカートがあったりしましたが、わたしの洋服箪笥の基本は「大人なの?」という色調で、ピンク色など子供の頃には着たこともありませんでした。その反動でしょうか、大人になったわたしのクローゼットは、赤いスカート、水色のブラウス、ピンク色のストール、オレンジ色のセーター、黄色い帽子、まるでドロップの缶をひっくり返したようにカラフルになりました。
元アイスペール。
氷を入れるお酒を飲む時には1杯ずつキッチンで作るので、アイスペールを使いません。我が家にあるアイスペールは、父が使っていた物です。ビール好きだった父ですが「だるま」と呼ばれていたウイスキーを好んでいた時期がありました。40年以上使われなかったアイスペールを、先日、わたしの仕事の現場で登場させ、不慮の事故で片方の取手が欠け、ステンレスの持ち手を失くし、ごめんね、という姿で帰宅させることになりました。でも、アイスペールとして使わなければならないと思い込んでいたので、これからはお玉を入れたり、花を生けたり、わたしの勝手で使いましょ、と思います。
カラス並みの早風呂ですが。
長く湯船に浸かるのが苦手で温泉などではカラス並みと言われますが、ひとりだけの狭い空間に安心するからでしょうか、自宅の浴室にいるのはぐずぐずと長く、入浴剤は必需品です。その日の気分に合った香りを選んで短い時間にポンとリラックスできる、好都合な優れ物と思います。お風呂好きの友人たちへのお礼や贈り物に選ぶことも多いです。地方での仕事の時に泊まるホテルへも入浴剤を持参します。緊張して過ごした一日の終わりに心身共にほぐしてくれるのです。
一輪挿しに水を入れてはいけません。
琺瑯の小さな一輪挿しを幾つか。こちらも友へのお礼と、我が家にも。内側が鉄なので水を入れてはいけません。ドライフラワーや小枝、細く切った桂皮を挿しても良いかな、と思っています。小さくて可愛い物は、いつもではなく時折、見える所にあるとほっとします。あぁ、わたしはこれを好きなのだ、とそっと撫でます。小さくて可愛い物、自分では買わない物、それらはいらない物ではなく、心の隅っこを温かくしてくれる力を持っています。どんどん手放すのではなく、誰かの手で作られた小さな物を愛でることも暮らしの中の楽しみに。
文と写真・優恵
優恵
ゆえ
モデル・俳優。ティーン誌『mc Sister』の専属として活動を始め、カバーモデルをつとめる。『non-no』『SO-EN』など多くの女性誌、TVコマーシャル、ファッションショーなどで活躍。20代後半からは映画、ドラマに出演し、活動の場を広げる。近年の出演作品に、美玖空トライアル公演「女は女で、女である」(2021・美玖空 脚本/演出)、『秘密のフレグランス』(2021・富田大智 監督)、『Motherhood』(2019・萬野達郎 監督)、『しあわせだったにゃよ』(2019・利重剛 監督)、『午後の悪魔』(2017・中村真夕 監督)、『アイズ』(2015・福田陽平 監督)、『PASSION』(2008・濱口竜介 監督)、インスタシネマ『女図鑑』(2019・美玖空 脚本)などがある。ドラマとファッションとおいしいものと花をこよなく愛する。フォトエッセイ『昼寝の前に』を連載中。https://6ropeway6.com/
撮影・青木和義