「なつめ」が美味しくて、美味しくて。
北京を訪れた時に知った干し棗(ナツメ)に胡桃(クルミ)を挟んだおやつは小腹が空いた時にひとつ。中国風のおこわを炊く時にも棗を入れます。中国の端午節に作られるちまきを季節外れに「今夜食べたい!おこわなら家でも炊ける!」と挑戦したのが始まりの我が家の「中国風」。そしてもうひとつ、若い頃に友人のお母さまに教えて頂いた棗茶は、棗と生姜の薄切りと枸杞(クコ)の実と松の実と大きめに割った桂皮(ケイヒ)を鍋で煮て作ります。冷やしても美味しい韓国の味です。
「なつめ」の50年。
我が家に50年近くある母の茶道具の棗です。随分と長いこと使われていませんが、いつも見えるところにあります。当時、我が家は父の仕事で福井県に住んでいました。塗物を手にしやすい街ですから、気が向いたのかもしれません。娘の頃のたしなみをわたしに伝えたかったのかもしれません。母は幼いわたしを相手にお点前の真似事をしていたと話してくれるのですが、わたしはまったく覚えていないのです。あぁ、そうかと合点がいくのは子供の頃から「お抹茶飲んだことあるよ」と思っていたこと。幼い頃の多くを忘れてしまって娘甲斐の無いことですが、20代の若き母に叱られたことはよく覚えているのです。
「なべつかみ」はミトン派です。
鍋掴みは手がすっぽりと入るミトンのタイプが使いやすいと思っています。場所は取りますが、熱い土鍋や蒸籠(セイロ)をしっかりと掴んで火傷もしません。台所で使う物はみんなで使うのだから買っても良いと思う、と言い訳をしながら財布の紐が緩みます。ちょっと素敵な鍋掴みを友人へのプレゼントに選ぶこともあります。焦げて茶色くなってしまったり擦り切れて穴が空いたりしたので、思い切って新しい物を用意しましたが、結局は穴を塞ぎ、焦げはゴシゴシ洗ってまだまだ使う気でいるので、ただ増えてしまいました。
遠いあの日を「なつかしむ」。
メイク道具を整理していて、久し振りにとても懐かしい物を手に取りました。雑誌の撮影で人生2度目のパリへ連れて行って頂いた時の想い出の品です。パリで活躍されていた日本人のヘアメイクの方との撮影でした。その方の接し方で、パリでは16歳の女の子はこんな風に大人でもなく子供でもなく、その年齢として扱ってもらえるのかと感じました。10代のパリジェンヌの魅力の理由を知った気がしました。最終日には「記念に」とヴィンテージのルージュコンパクトをプレゼントしてくださいました。メイクをしていた早朝のホテルの部屋や、日が長くいつまでも明るいパリの街を懐かしむために、わたしはその小さな蓋を開けます。
優恵
ゆえ
モデル・俳優。ティーン誌『mc Sister』の専属として活動を始め、カバーモデルをつとめる。『non-no』『SO-EN』など多くの女性誌、TVコマーシャル、ファッションショーなどで活躍。20代後半からは映画、ドラマに出演し、活動の場を広げる。近年の出演作品に、美玖空トライアル公演「女は女で、女である」(2021・美玖空 脚本/演出)、『秘密のフレグランス』(2021・富田大智 監督)、『Motherhood』(2019・萬野達郎 監督)、『しあわせだったにゃよ』(2019・利重剛 監督)、『午後の悪魔』(2017・中村真夕 監督)、『アイズ』(2015・福田陽平 監督)、『PASSION』(2008・濱口竜介 監督)、インスタシネマ『女図鑑』(2019・美玖空 脚本)などがある。ドラマとファッションとおいしいものと花をこよなく愛する。フォトエッセイ『昼寝の前に』を連載中。https://6ropeway6.com/
撮影・青木和義
文と写真・優恵