山梨のおばあちゃんの「編んだもの」。
小学6年生の頃、母の友人夫妻とドライヴに出掛けました。山梨の甲府の小父さんのご実家は大きな古い家で玄関から続く広い土間があり、そこから上がる畳の居間とその反対側には屋根裏に上がる階段があったように記憶しています。屋根裏にはおばあちゃんの「編んだもの」が大量に畳んで積まれていました。膝掛けにも毛布にもなるしソファーに掛けても良い、何に使っても便利な「編んだもの」は、大所帯の家族みんなのセーターをほどいて繋いで毛糸玉を作るところから始まると聞き、「気の遠くなるような作業だ」と子供心に感激しました。そして「1枚好きなのを持って帰りなさい」と屋根裏で選ばせてもらった時間はまさに至福の時でした。それから何十年も経っておばあちゃんの手仕事は刺繍に変わりましたが、会う度に「好きなのを持って帰りなさい」と選ばせてくれましたので、わたしはおばあちゃんの目を細めて笑う顔とその声をよく憶えています。
Vignerons indépendantsのグラスで。
先日、家でサングリアが飲みたいと思い、レモングラスやクランベリー、シナモンなどを入れて作り、飲む時に懐かしいグラスを使ってみました。15年以上前のことですが、友と訪れたパリで大規模なワインの展示会に行く機会があり、ワイン好きの彼女と滞在中に飲むワインを買おうと出掛けました。入口でチケットを渡すと試飲用のグラスをくれます。体育館のような大きな会場で1000ほどの出店ブースがあり、あっちでも一口、こっちでも一口、ワインに合うおつまみのブースではフォアグラのバケットサンドや美味しいチョコレートも買い込み、それは楽しい体験でした。ところが飛行機の機内持ち込みで持って帰って来た記念のグラスを友は座席のポケットに忘れてしまい、わたしの方ががっかりしたことまで思い出しました。
とにかく「おめでとう、おめでとう、おめでとう」の思いですが。
40年来の友のお嬢さんがこの春お嫁に行き、ご子息が大学生になり独り暮らしを始めました。おめでたいばっかりの友の家にお祝いをと考えて、かねてより訪ねてみたいと思っていた沖縄の工芸品「やちむん」を扱うお店で選ぼうと決めました。ご店主に贈りたいご家族のお祝い事を伝えてご意見も伺い、お嬢さんにはなかなか自分では選ばない九寸の大皿を、独り暮らしの大学生には「しっかり食べてね」の大きなお茶碗と六寸皿と豆皿を、そしてお疲れさんの友人夫婦には八寸皿を2枚。良き買い物ができたと嬉しくなりましたが、贈り物とは贈る側の自己満足かもしれないとじつは思っています。
たらいとヘチマ。
昨年の秋から使い始めているホタテパウダーでお野菜や果物を浸すのに母がいくつものボウルを並べているのを見て、もっと大きなたらいが良かろうと野田琺瑯の素敵なたらいを購入しました。届くのに3ヶ月も掛かり、その上割高でしたが、どうしてもこのたらいが良いと思ってしまったら代替えを考えられませんでした。「このたらい良いよねぇ」とわたしは毎日のように言っています。でも母は大きくて重たいと思っているかも知れません。先日、母が玄関から大きな声で「中国から荷物よ!」とわたしを呼びました。とても割安なヘチマの台所用スポンジでした。でも中国から届くとは思っていなかったので、次回からは国内発送のものにしようと反省しました。使い始めて数週間、母は「やっと慣れた」そうです。
優恵
ゆえ
モデル・俳優。ティーン誌『mc Sister』の専属として活動を始め、カバーモデルをつとめる。『non-no』『SO-EN』など多くの女性誌、TVコマーシャル、ファッションショーなどで活躍。20代後半からは映画、ドラマに出演し、活動の場を広げる。近年の出演作品に、美玖空トライアル公演「女は女で、女である」(2021・美玖空 脚本/演出)、『秘密のフレグランス』(2021・富田大智 監督)、『Motherhood』(2019・萬野達郎 監督)、『しあわせだったにゃよ』(2019・利重剛 監督)、『午後の悪魔』(2017・中村真夕 監督)、『アイズ』(2015・福田陽平 監督)、『PASSION』(2008・濱口竜介 監督)、インスタシネマ『女図鑑』(2019・美玖空 脚本)などがある。ドラマとファッションとおいしいものと花をこよなく愛する。フォトエッセイ『昼寝の前に』を連載中。https://6ropeway6.com/
撮影・青木和義
文と写真・優恵