今はラフに、初めては「少しちゃんと」でした。
髪が伸びて来たのですが、結ぶにはまだ短い。もう少し伸びるまでは、差し色も兼ねてバンダナやスカーフを巻いて過ごします。さっぱりとしたデザインの麻のワンピース、襟元と袖口とウエストと裾に麻のリボンを縫い付けてわたし好みに手を入れてから、随分と長く着ています。そしてコットンのシャツ同様にノーアイロンでラフに、霧吹きを掛けるくらいに留めて麻の肌触りを楽しみます。10代の終わりに選んだ「初めての麻」は、白いノースリーブのワンピースでした。前ボタンで開襟のそのワンピースを着て「少し大人」「少しちゃんと」を意識した夏の装いだったのです。
子供部屋の「異国」。
45年も前のことです。ラジオのロシア語講座を熱心に聴いていた父が、ある日、幼いわたしにマトリョーシカをおみやげに買って来ました。初めて見たわたしは衝撃を受けました。開けるとどんどん出て来る人形。わたしは毎日出して並べて、しばらく眺め、またもとに戻しました。きっちりと絵柄を合わせる時に、きゅっきゅっきゅっと音がします。小学校の友達の部屋には無かったマトリョーシカ。わたしの子供部屋の中の「異国」がきゅっきゅっきゅっの中に詰まっていました。今も時々、出して並べてひとりで楽しみます。
「おばあちゃん」の良いところを少し。
その日のお茶の葉によって、お急須を使い分けるのも楽しみのひとつです。ある日届いたお茶と甘しものは40年来の友のご子息からでした。この世に誕生した時から知っている小さな男の子が、なにかの折にわたしのことを思い出して贈り物をしてくれるほど大人になっていました。可愛いばっかり、嬉しいばっかり、「おばあちゃん」とはきっとこんな気持ちだな、と思いながら、届いたお茶のためにお急須を選びます。自分で買うよりずっと美味しいと思うのも、お茶の時間に友の家族を思うのも、わたしの家族の喜ぶ顔も、あの小さな男の子からのお届け物でした。
ナイトリッチと北斗七星。
新しくなった夜用トリートメント「ナイトリッチ」のフランキンセンスの香りが好きで堪らず、素顔で過ごす日には朝にも少し。「あぁ、今日も笑って一日を過ごせますように」鏡を見ながら緊張がほぐれます。星空のパッケージが綺麗だなぁ、と眺めて撫でているうちに、ふっと子供の頃のことを思い出しました。9歳の夏まで暮らしていた札幌の、9階建てのマンションの屋上で父と見上げた星空には、北斗七星が大きく頭の上に輝いていました。星座の本の中でしか見たことのなかった北斗七星を見上げた夜と、その空気を思い出させてくれたナイトリッチです。
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優恵
ゆえ
モデル・俳優。ティーン誌『mc Sister』の専属として活動を始め、カバーモデルをつとめる。『non-no』『SO-EN』など多くの女性誌、TVコマーシャル、ファッションショーなどで活躍。20代後半からは映画、ドラマに出演し、活動の場を広げる。近年の出演作品に、美玖空トライアル公演「女は女で、女である」(2021・美玖空 脚本/演出)、『秘密のフレグランス』(2021・富田大智 監督)、『Motherhood』(2019・萬野達郎 監督)、『しあわせだったにゃよ』(2019・利重剛 監督)、『午後の悪魔』(2017・中村真夕 監督)、『アイズ』(2015・福田陽平 監督)、『PASSION』(2008・濱口竜介 監督)、インスタシネマ『女図鑑』(2019・美玖空 脚本)などがある。ドラマとファッションとおいしいものと花をこよなく愛する。フォトエッセイ『昼寝の前に』を連載中。https://6ropeway6.com/
撮影・青木和義
文と写真・優恵